ちょっと古い話になりますが、先日長岡にいったときに「地元密着型企業を見たい」という私のリクエストに長岡大学の先生方が応えてくださいまして、仕事の合間をぬって、2社の視察をさせていただきました!
1社目は、いつも美味しい米菓を作ってくださる
岩塚製菓株式会社さんです。

田んぼの中にあります。
雪の多い長岡で、出稼ぎに行かなくても済むよう地元に産業を創ろう、と考えた2人の元越後杜氏が立ち上げた同社は、地元の人材を採用するとともに、最初手がけた飴の原料である芋や、現在の商品である米菓の原料の米を地元から購入することで地域の支持を得てきたそうです。商品開発に力を入れるだけでなく、トヨタ生産方式に倣った「岩塚生産方式(Iwatsuka Production System,IPS)」を導入して生産の効率化を図った結果納品リードタイムが3週間→6日間となり、受注生産にシフト。つまり岩塚のおせんべいはいつもできたて。

表面に製造日を記載するのは、鮮度に対する自信の証。
6日間というのはなかなかすごいですね。しかし・・・生モノならともかく、おせんべいですからねー。正直、鮮度がいいことがどれくらい味や売上に影響があるのかは、いまいちよくわかりませんでした。果たして消費者が食べてその違いが分かるのかな??(でもアイスクリームも工場でできたてを食べると美味しいというから、実際に食べてみると違うのかしら。)ただ、リードタイムが短いことで問屋や小売店の在庫スペースがかなり圧縮できたそうで、6日間売れる分だけ置いておけばいいというのは、おせんべいのような嵩張る商品にとってはかなりプラスなはず。これまで岩塚さんの商品を1種類しか置いていない店が、同じ在庫スペースで2種類扱えますよ、となればもう1種類扱ってくれるようになるかもしれないですから。
この会社はとにかくアットホームな雰囲気で、誕生会があったり、社内結婚も多いそうです。定期採用としての新卒採用とアルバイトからの社員登用が多く、中途採用はほとんどなし。なお新卒採用は大卒で全国区で募集しますが、Uターン者が多いそう。興味深かったのは、新潟県
中越沖地震中越地震のときに「生産ラインが一週間
も止まってしまいまして・・・」という言葉。こちらの感覚としては、「一週間
しか止まらなかったの?!」て感じなのですが、同社は地元採用=歩ける距離に住んでいる社員が多いので、有事で交通網がマヒしても徒歩で出社して対処にあたったから、というのが理由だそうです。
ちなみに意外なことに同社はJasdaqに上場しています(1989年)。「地域の人への恩返しのために」とはいえ、上場してしまうと余計な横やりが入るのではないか?長岡密着も難しくなるのではないか?と考えたのですが、同社の大株主は、トヨタ生産システム研究会繋がりの株式会社紀文食品、従業員持ち株制、メインバンクの北越銀行、取引先など。でもそれぞれ発行済み株式総数の5%程度です。そしてIR資料によると、自己株式も発行済み株式総数の6%程度、発行済み株式総数は発行可能株式総数の1/4となっています。でもあんまり流動性は高くないらしい。優待を手厚く心がけている(キャピタルゲインよりインカムゲインを目的としてもらう)のと、従業員持ち株制のために岩塚OB会のような雰囲気(ファンクラブ的?)があるのが原因じゃないかと話していらっしゃいました。
さて、企業訪問の2社目は
朝日酒造株式会社さん。日本酒・久保田などの製造販売を行っている、同じく地元密着型の非上場企業です。こちらは酒蔵という単語から想像できない、モダンな社屋と工場でした。

酒蔵とは思えないモダンな建築。
日本酒の一連の製造工程を見学させていただく(*通常は見学者を受け入れていないそうです)。酒造りという職人のアートの世界をサイエンスに落とし込むプロセスがよく見えました。朝日さんは、商品の知名度の割には会社組織は小所帯。でもやはり地元では一流企業だそうで、「給料はそれほどいいわけではないけど、入社が決まったとき祖母に『良かったね』と言われました」とは社員さんの談。なお朝日さんの所在地は市町村合併で長岡市になりましたが、話を聞けば聞くほど、アイデンティティとしては「越路町」という人口1.4万人の
集落地域、あるいはその下位単位である「朝日」です。案内をしてくださった方はご自身を外部の人間と言っておりましたが、外部って言っても長岡市内の別の地域なんですよ〜。市外か県外かと思いきや、傍から見たらそれは外部ってレベルじゃないけどなあ。本当に地域密着型なんだなーと感じました。
* * *
岩塚さんにしろ朝日さんにしろ、何といいますか、由緒正しい「日本的経営」って感じなんです。前職がアメリカ企業だったせいか、却って日本的経営の良さがよく見える私。古臭いと批判されることも多いですが、単に組織の硬直化が進み環境変化に適応できなくなるのが問題なだけで、それを除けば実はすごく強いしくみなのでは?と常々考えておりまして、この2社のような地元密着型中小企業はいい日本的経営の好例だと思います。じゃあ次の疑問は、これらは昔風の日本的経営をたまたま続けられたラッキーな例なのか、何かの理由で組織の硬直化のような不利益を発生させていない新たな日本的経営の例なのか?たぶん後者なんだろうという印象ですが、じゃあどうやったらそういう企業が作れるのかなー??色んな経営のヒントが、地域の中小企業さんには隠されている気がします。なおご案内いただいた長岡大学の先生が、「従業員には農地持ち(つまり兼業農家)が多いのですか?」という質問をしていたのが印象的でした。農地を持っていると、その地で生きていくしかない、ゆえにうまくやっていかなくてはいけない、という思考回路になるのだそうです。なるほど。
しかし、楽しい社会見学でした。お世話になった皆様、ありがとうございました〜。
posted by Kokubo at 23:47| ☔|
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