2014年07月24日

【もしベビ】産後クライシスとチームの発展過程

第5回は、第4回で触れた「二人で大変な時期を乗り越える経験は、チームとしての結束を強めてくれる」というところについて詳しく書きたいと思います。

「産後クライシス」とは、出産を契機として夫婦仲が悪化する現象(出典Wikipedia)で、ここ数年話題になっていますね。産後クライシスの原因として、男性の家事育児への低関与に対する女性の不満だったり、女性の産後のホルモンバランスだったりがあげられています。これ、出産する前に謎だったものの1つです。結婚して10年以上経つ私たち夫婦は、仕事で物理的にすれ違うことは多いもののコミュニケーションをとる時間をとても大切にしていたし、意見の相違はロジカルに議論して収束することが出来てたし、私は怒ったときも感情的にならずに淡々と状況を説明することが出来るし、夫は家事は何でも出来るし、なんとなくうちは産後クライシスは大丈夫なんじゃないかな〜と思っていたんですよね。でも発生のメカニズムがいまいち分からなかったので事前に完全な対策をとることは出来ず、とりあえず夫と「産後クライシスという現象があり、うちもそうなる可能性がある」という問題意識の共有だけをしておきました。

で、実際出産してみてどうだったか。

この産後の3ヶ月間、おそらく私と夫は、結婚して以来最も多くの喧嘩を経験したのではないかと思います。前回も述べたとおり、私は「一定時間ごとに原因不明のエラーが発生する絶対止めてはいけないシステム(=ベビ)の対応をたった一人で任されてるエンジニア(=母親)」です。しかも産後1ヶ月は出産のために開いた骨盤に内臓が下垂するし、帝王切開なら普通の開腹手術の術後と同じ状況なのに加え、胎盤といううっかり損傷したら出血多量で死ぬくらいの内蔵を1個とった身体で、授乳で(母乳はもとは血液なので)毎日ペットボトル1〜2本分の血液を失い続けている状態です。ただ厄介なことに一見すると元気なため、自分がそれだけの身体的ダメージをくらっているという自覚も周りの認知もなく、つい産前と同じような感覚で家事や育児をしようとしてしまうんですが、冷静に考えてみれば、「内蔵をとったばかりで今も血液を失い続けている人がたった一人で24時間体制のシステム対応をしている」状態で身体や頭がまともに働くわけないですよねえ。これが仕事なら、ウツになるし会社が訴えられるレベルですね。例に漏れず私の身体と頭もいっぱいいっぱいで、出産前は軽く流せていたような夫の言動にイラッとするようになっていました。私はもともとショートスリーパーで短時間睡眠で動けるタイプなのですが、自分のペースで入眠と覚醒が出来る仮眠と、ベビにたたき起こされる仮眠はぜんぜん違います。睡眠不足で自律神経がおかしくなり精神的余裕が失われてしまっていたせいもあり、あれだけ家事も育児も協力してくれていた夫に、頭では理不尽だと分かりつつもイライラをぶつけるという出産前の自分からは考えられないことをやってしまっていました。それくらい非常事態だったわけです。

ただ喧嘩もいっぱいした一方で、夫の思いやりや人間的成長をこれまで以上に実感した3ヶ月でもありました。お互い大変な中で見せてくれる小さな思いやりは、身にしみます。また、ベビや私への対応が進化していることにも気づきました。理系でコンサルタントの夫は、仕事の構造づくり軸が非常に優位な反面人間関係への配慮軸が弱かったのですが、いっぱいいっぱいの私やロジックが通じないムスメに対峙することで理不尽さへの耐性や配慮する能力を高めて言ったのではないかと推測します。上述の非常事態は私の身体の回復とコソダテライフへの適応とともに減っていきましたが、夫が私に向きあってサポートしてくれた記憶は残ります。そしてそんな夫と共有する(嵐の合間に訪れる)平和なベビとのひとときは本当に幸せな時間であり、夫への愛情も深まりました。そういう、雨降って地固まる的な経験をした3ヶ月でした。

ところで、ビジネスでクライシス(危機)・マネジメントと言うと、実際にクライシス(企業不祥事などの経営危機)が発生したときにどう動くべきかを予め検討しておくというものです。クライシスの発生を未然に防ぐのはもちろんではありますが、完全には避けることは出来ないということを前提に、いざというときの対処法を考えておくことで危機管理をするという考え方です。これ、産後クライシスも同じではないかと。つまり、出産後にパートナーに対する愛情の低下(クライシス)は、不可避だと考えたほうがいいのではないかと思うのです。というのも、女性は身体が上述の状態なので夫への配慮は減るし、女性の状況の変化を理解できない(知らない)夫はこの女性の変化を受け止められないし。ベビのお世話に時間がとられるので、意識して時間をつくらなければ夫婦間コミュニケーションの時間も激減します。そんな状況の中では、パートナーへの愛情が相対的に薄れるのは仕方ないのではないでしょうか。ただ問題は、関係性が揺らぐこと自体ではなく、揺らいだ結果の関係性悪化をそのままにすることなのだと思うのです。一時的に夫婦の関係性が悪化してもその都度ちゃんと修復すれば大きな問題になりませんが、そのままにしていると数年後には修復不可能な溝になってしまいます。だからクライシス・マネジメントとしては、産後は関係性が揺らいで愛情が低下することを前提に、その対処法を予め考えておくことが大事なんじゃないかなと思います。

Tuckman(1965)は小集団の発展過程を4つのステージに分けています。まずメンバーが集まって小集団が形成されるForming(形成期)。この段階ではまだ人が一緒にいるだけ、という状態です。そして続く第2ステージがStorming(混乱期)で、メンバー間の意見のぶつかりあいが多く生じます。そしてその混乱を経て迎える第3ステージは、個人の役割やルールが明確になるNorming(規範期)です。そして最後に各メンバーが機能的に動いて大きな成果を得られるPerforming(機能期)のステージが訪れます(Tuckman,1965)。

組織はPerformingのステージに到達することで大きな成果を得ることが出来ますので、Formingからなるべく早くStormingとNormingを経てPerformingの状態に持っていきたいわけです。ただ意見の食い違いや対立がたくさん発生するStormingのステージは組織メンバーにとってストレスフルな状態なので、つい目の前の心地よさを求めて他人との対立を避けてしまいがちです。ですがここできちんとぶつかってお互いの理解を深めてこそ、適切なNormingやPerfomingのステージに行くことができます。つまりStormingは機能するチームになるための必要なプロセスであり、対立を通じて相互理解を深めることが大事なんですね。むしろ対立を避けること、発生した対立をそのままにすることは、ハイパフォーマンス組織への道を閉ざしてしまうのです。なので、多くのチーム・ビルディングを目的にした活動は、このStormingが発生する状況を人為的につくりだし、相互理解を深めることで早く組織をPerfomingのステージに持っていこうとします。

夫婦というチームも、ベビという新規参入者を迎えることで、組織内に対立がもたらされます。このStormingのステージではメンバー間の関係性は一時的に悪化しますが、有効なチームになるためにはここで対立を避けるのではなく、ちゃんとぶつかって相互理解を進める努力をすることが大事なわけです。とはいえ、対立に向き合うのはやっぱり大変な作業です。だから、その大変だけれど大切な作業を誰とやりたいのか、誰とチームになりたいのか、を妊娠する前に一度考えてみたほうがいいと思います。「この人が」自分を幸せにしてくれるかどうかは分からなくても、「自分が」この人とならStormingを乗り越えられるか否かは割と分かるんじゃないでしょうか。そして、Stormingのステージは大なり小なり必ず来るということを念頭に、出産前の余裕があるうちになるべくぶつかって相互理解を進めるという経験をしておくといいと思います。ぶつかることで関係性を一歩進めるという作業に慣れておくことで、産後に到来する産後クライシスをプラスの影響に転じることが出来るのだと思います。

そして、もしこのパートナーとならStormingを一緒に乗り越えることができると思えるならば、産後クライシスの心配はないのではないかと。それはつまり、クライシスが訪れないという意味ではなく、クライシスは訪れるだろうけれどそれを活かしてチームとしてさらなるステージに到達できるという意味で、心配ないのではないかという意味です。


IMG_1369.JPG
ムスメのおかげで、組織として進化させてもらいました。


posted by Kokubo at 22:00| 神奈川 | Comment(0) | TrackBack(0) | もしベビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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