私は Thinkpad Lover で昔仕事で AIX も使っていましたが、IBM のことは「メインフレームが得意なPCメーカーの1つ」くらいの認識でした。ところが同社の歴史を紐解くと、もともとは計量器、自動食肉切り機、パンチカード関連機器などを製造していた3社が1911年に合併してできた The Computing-Tabulating-Recording Company(C-T-R)が前身なのですね。1911年!約100年前です。歴史がないことがコンプレックスのアメリカ人が、IBMのことを自慢するわけだ。ルイス・ガースナーによる大改革の前は、IBM は従業員を大切にしており、レイオフはしないし、2代目、3代目と一族で入社することが奨励されたそうです。まさに古き良き日本の会社を見ているようで、ドットコム企業出身の私には想像できない歴史の重みを感じました。今のIBMはPC製造も手放してサービス中心にシフトしているけれど、言われてみれば確かに IBM の "M" は "Machine"であって、"Computer" の会社ではないんだった。いつの間にか手段が目的になり、昨今では機械を作ってから使い方を考えているような現象も見受けられますが、元来機械とは人の労働をサポートするためのツールだったはず。Museum を見ていると、改めてその原点にたちもどることができました。
参考:IBMの歴史(英語サイト)
遙か昔の高校時代は歴史ってつまらない科目だなあと思っていたけど、それは学ぶ目的が分からずに単なる暗記科目だと捉えていたからなのだと今は分かる。今日の現象を築いている要素やプロセスを知る作業だと考えれば、歴史はこんなにも面白い。これはおそらく博士課程の勉強でも同じで、なぜカリキュラムが何百年も前の理論を学ぶことからスタートするかというと、これまでの理論の流れを踏まえることでなぜ今日のこの理論が生まれたのかを理解することが重要で、この歴史を理解していないと応用がきかないからなのです
ところで教育に携わる私が個人的に感動したこと。IBMには当時唯一のコンピューターを教える学校があったのですが、そこの玄関の階段には以下のように彫られているのです。
(上段)
THINK
OBSERVE
DISCUSS
LISTEN
READ
(下段)
つまりここを通る学生は、一歩づつ READ→LISTEN→....と登っていき、最後に THINK に到達するんですね。何が大切なのかを毎日毎日すり込ませるという点で、大変素晴らしいしくみだなあ(自分のことを顧みるに、こういうのって案外現役の時は気付かないかもしれないけど)。つくづく、THINKPAD ってとことん「考えるためのツール」なんだと思わせられる。
私は、個人的には小回りの利かない大組織は働く場として好きではありません。今の IBM はいわゆる大企業の不利益がたくさん発生しており、不便なことも多すぎる。でも、この積み上げてきた年月はリスペクトに値すると素直に感じました。なお組織論では常識ですが(一般では誤解されがちですが)、いわゆる「官僚制」はそれ自体が批判の対象ではありません。官僚制の弊害として、組織が硬直して変化に対応できないのが問題なのですね。そのことが、今回の IBM の歴史を見ることで実感できました。ちなみに一緒にいた方は 日本IBM に25年間いて、初めてこの Museum を訪れたそうです。
その後、オットとふたりで近くに中華を食べに行きました。アメリカの中華って、日本のそれとは味が違ってとても好き。でも肉、魚、野菜を1皿づつ頼んだら、全て同じ味付けで、具材も共通。A.ビーフブロッコリー、B.海老野菜炒め(ブロッコリーとサヤエンドウいり)、C.野菜炒め(サヤエンドウ入り)で、(A-肉)+C=Bでした。日本だったら注文時に教えてくれそうなものだけど、さすが大雑把なアメリカだねえ、と2人で大笑いしながら食べる。こういうハプニングって、一人だとけっこうブルーになるかもしれないけど、2人だと笑いあうことができる。パートナーの存在に感謝したアメリカ最後の夜でした。明日は帰国だ。
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たとえば、同じような企業であるHPも元々、計測器が主のメーカーでした。
今でも計測器は強いんじゃなかったかな。計測器のための計測器のようなものを作っているはずです。
「経営戦略論」(有斐閣)によると、企業のドメイン定義の定義のアプローチとして、以下の3つの次元による定義を挙げています。
1)どの市場・顧客層(Who)に焦点を当てるのか?
2)どのような独自の技術やノウハウ(How)で対応するのか?
3)どのような顧客機能や顧客ニーズ(What)に焦点をあてるか?
で、このWhatを中心にドメインを捉えることで、将来の展開方向を示す潜在的な事業を掘り起こすことができ、戦略的な可能性の幅を持たせることができると述べています。つまり「コンピューター」に拘ると、製品や技術の陳腐化に伴って企業そのものも危なくなります。その点、「人の労働を支援する」という機能でとらえるとより幅のある戦略が考えられるのです。
しかし、今のIBMはどうなんでしょうねえ・・・。