2013年05月06日

書籍サマリー「リバース・イノベーション」

Govindajaran, V. and Trimble,C., (2012) “Reverse Innovation“
ビジャイ・ゴビンダラジャン, クリス・トリンブル(2012) 『リバース・イノベーション』

【要約】
リバース・イノベーションとは、新興国で最初に生まれたイノベーションを先進国に逆流させるという、従来の流れとは逆のコンセプトであり、時に大きな破壊力を持つ。新興国の経済成長スピードは目覚ましいため、新興国発のリバース・イノベーションは大きなビジネスチャンスを秘めている。但し、新興国のニーズは先進国のニーズとは別物であり、ビジネス上の課題も異なることから、先進国で開発されたグローバル商品の機能を落として低価格にしたモデルを新興国で販売するという考え方ではなく、新興国のニーズに合わせた商品開発を一から行う必要がある。本書では、リバース・イノベーションの具体的なプロセスについて8つの事例を紹介している。

リバース・イノベーションを実現するためには、1)成功体験を捨てる、2)5つのニーズのギャップに着目する、3)川上へ遡るパターンを理解する、ことが必要だと述べられている。まずリバース・イノベーションは過去の成功体験を捨てることから始まる。現在の新興国は“過去の”先進国とイコールではなく、顧客ニーズも社会環境も経済発展プロセスも全く異なるという前提のもとで開発を進めなくてはならないのである。またリバース・イノベーションのためには、先進国と新興国における性能・インフラ・持続可能性・規制・好みという5つのギャップに着目しなければならない。例えば新興国では、先進国の15%の価格で50%の機能で(性能)、不安定な電力供給環境での使用に耐えうる形で(インフラ)、深刻な大気汚染への配慮をしつつ(持続可能性)、現地政府の規制に則り(規制)、現地の文化的多様性を取り入れた(好み)製品が求められているのである。そして新興国で生まれたイノベーションが先進国へ遡るパターンとして、先進国だけの市場規模では投資が正当化されないほど小さな「取り残されたニッチ市場」向けであるか、あるいは徐々にニーズギャップが縮むことで主流市場となりつつある「明日の市場」向けであるか、の2つのケースがある。例えばGEヘルスケアは2010年に小型で携帯可能な超音波診断装置(Vscan)を開発したが、この製品は2002年に中国市場向けに超低価格・携帯性(中国農村地帯の患者は診察のために都市部まで出向くことができないため)・使いやすさ(中国農村地帯では専門医療よりなんでも屋が求められる)に配慮してリバース・イノベーションを行った結果誕生したものである。同商品はその後画質を改善し、先進国での顧客にも支持されるようになった。このような市場は先進国だけでは小さすぎたのであるが、その後のニーズギャップの縮小によって、先進国にもイノベーションをもたらしたのである。

リバース・イノベーションを実現するためには、企業はマインドセットを転換せねばならない。そのためには、@新興国市場に重心を移す、A新興国市場に関する知識と専門性を高める、Bはっきりと目立つ個人的な行動で雰囲気を変える、の3つのステップが必要である。またマネジメントモデルも変える必要がある。例えば、リバース・イノベーションを実現することを目的とした特別な組織単位「LGT(ローカル・グロース・チーム)をつくり、実践からの学習を蓄積させるべきである。また、グローバリゼーションとリバース・イノベーションは相反するものではないことにも留意する。多くの多国籍企業において、グローバリゼーションは今後も国際競争力の基盤となり続け、リバース・イノベーションはそれを補助する存在であるから、2つは両立し、かつ協力し合う必要がある。なお自社の既存製品とのカニバリゼーションについての懸念は妥当ではない。多くの場合、新製品は既存製品の機能を完全に代替するわけではなく、むしろ市場を刺激して全体のパイを大きくするという働きをするからである。そして、そもそも自社がやらなければ他者に出し抜かれる。
 
リバース・イノベーションに限らず、新規事業には多くの障壁が立ちはだかる。しかしリバース・イノベーションを手掛けるリーダーたちは、自分たちの技術が多くの人々の生活を向上する可能性に情熱を燃やしており、その情熱こそが障壁を克服する原動力になると著者は言う。先進国が費やした半分の時間で、新興国は発展するだろう。そのために必要なのは慈善事業ではなく、多国籍企業が本業において成功をもたらすために必要なことをやるという姿勢である。リバース・イノベーションは慈善事業ではなく、れっきとしたビジネスである。


【補足】
ゴビンダラジャンは、経営思想家ランキングThinkers50(2011年度)で「イノベーションのジレンマ」のクリステンセン、「ブルーオーシャン戦略」のキム&モボルニュに次ぐ第3位に選出されている。また彼の「The $300 house」のアイデアは同年のThe Breakthrough Idea Awardを受賞している。


【感想】
個人的にオーバースペックな商品に辟易としてきた消費者として、このリバース・イノベーションが作り出すであろう市場の存在は直観的に理解できますし、また今の大学生世代を見ていても、お金がないというより、その金額を出してまで欲しいと思えるものが少ないのだろうと感じています。こういった状況の中で、新興国の生活改善と先進国の市場活性化につながるリバース・イノベーションは理想的な解決策に見えますが、これまでの大量生産時代での成功体験に縛られている企業にとって、このマインドセットの転換がどれほど困難かということも想像がつきます。本書の中でも既存の大企業がリバース・イノベーションを実現するための対策をいくつか述べていますが、その中にある「外部人材を活用した柔軟なチームをつくる」の一環として、例えばうちのゼミ生がやっている大学のフューチャーセンターなどはいい補完関係になるのではないでしょうか。リバース・イノベーションを実現するためには、既存製品の引き算ではなく、最低限必要な機能は何かをゼロベースで考えることから始める必要がありますが、これは学生が非常に得意とする思考プロセスですので。

またこの本は、私が311後の東北にイノベーションの片鱗を探しに出かけた理由を説明してくれました。日本の産業は制度疲労を起こしているところが少なくないなーと思っていますが、東北では良くも悪くもゼロベースで打開策を考えねばならない状況に陥っており、これはリバース・イノベーションが生まれる土壌ができているということだと思いますし、実際に現地に足を運んだ後はその思いを強くしました。だから震災前に戻すという考えではなく、リバース・イノベーションのためのチャンスを活かすという考えで現地企業は活動をした方がいいと思うし、現地以外の企業は支援活動としてではなく研究開発あるいは人材育成の一環として、東北に行ったらいいのにと思います。なおこの本の著者も、日本語版への序文に東日本大震災後に言及しています。

Chikirinの日記」にもレビューがあるよ。



リバース・イノベーション / ビジャイ・ゴビンダラジャン, クリス・トリンブル (著); 小林 喜一郎(解説) (その他); 渡部 典子 (翻訳); ダイヤモンド社 (刊)

(解説がKBSの小林先生だったー・・・。)



posted by Kokubo at 14:58| 神奈川 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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