まず、そのイメージを実現するために必要な要件を洗い出しました。そして最低限の要件として、継続的に続けなければ意味がないと考えました。作りたいのは「イベント」ではなく、「フューチャーを自ら切り拓いていこうとする人や、そんな人たちを全力で応援する人が集まる場」であり、つまり「コミュニティ」です。フューチャーセンターはそのコミュニティの維持装置としての活動であると位置付けると、「定期的に一定数の人が集まること」が絶対に達成しなければいけないゴールとなります。そして、このゴールを達成するためには、何度も足を運んでくれるリピーターをつくらなくてはなりません。リピーターをつくるためには、何度来ても面白い(飽きない)場をつくることが必要です。飽きない場をつくるためには、そこに集まる人が面白いこと、プロジェクトが具体的に進んでいることが見えること・・・・というように、具体的にやるべきことをブレークダウンしていきました。
また、同時に、作るべきコミュニティのビジュアルイメージを作りました。そこには@どんな人がいて、Aどんな表情で、Bどんな会話をしているかを、具体的な一枚の絵としてイメージできるまで考えました。
例えば@は、学生と社会人です。学生はまずはゼミ生、将来的には他ゼミ生、他学部・他大学の学生に足を運んでもらいたいと考えました。ただこのフューチャーセンターは大学の中なので、学生の参加はそれほど難しいことではないと思いましたし、だからこそ定期的に開催しても参加者が全くのゼロということはないだろうと考えました。人がいないコミュニティほどつまらないものはありませんが、大学でやる限りにおいて学生に関してはおそらく大丈夫だし、ここで一定数の参加者が期待できたことは、定期開催が可能だと判断した大きな要因です。
しかし、社会人にとって大学内のフューチャーセンターに足を運ぶのは、ハードルが高いと考えました。物理的・心理的な距離もありますし、社会人は忙しいので時間を投資するだけの価値があると思ってもらえないと2回目はないだろうと。なので、提供価値をちゃんと確立するために、ターゲットを広く構えるのではなく、敢えてターゲットを絞ってそのターゲットが満足するような場を作ることを目指しました。ターゲットを絞るに当たってはあまり迷わず、学生に「社会人ってカッコいいな」と思わせてくれる社会人、としました。これはフューチャーセンターの前身であるオープンゼミを始めたときからの問題意識で、大学やバイトだけでは学生が社会人との接点が少なく、ましてや自分が将来あんなふうになりたいと思える社会人に会う機会がほとんどないというところを何とかしたかったのです。カッコいいというのは、例えば仕事ができるだけじゃなくて楽しんでいる、仕事や社会の愚痴を言わない、学生を下に見るのではなく互いに学び合う姿勢を持ってくれる、行動力があって背中でお手本を示してくれる、そういう人をイメージしました。
そして次に、そういうターゲットに足を運んでもらうために必要な要素を考えるべく、ターゲットのイメージに合う周りの友人に「どういう要件があれば行ってもいいと思うか?」をヒアリングしまくりました。その結果、「そういう人は抽象的な話はあまり好まない」ということが分かりました。こういう人たちはアクションにつながるディスカッションを好むので、「社会をどうしたいか?」という落としどころが見えにくいテーマより、「社会をよくするために自分はこういうプロジェクトを考えているが、実現にあたってこういう課題があるがどうすればよいだろうか」という具体的な実行上の相談に燃えるようなのです。確かに、「社会をよくする」のような人によって定義が異なるテーマですとディスカッションが空中戦になりやすいということが、他のフューチャーセンターを視察した学生のレポートから分かっていました。一方で、具体的なプロジェクトの相談を聞いていると、確かに入口はミクロなんですが、そこからその人の価値観や社会の問題が透けて見えることが多く、「ああ、この人はこういう考え方をする人なんだ、面白いなあ、そういう人と一緒に組むとこういう解決策が打てるなあ」と結果的に幅のあるディスカッションになりますし、相談をもちかけた側としては視点を引き上げられたり協力者が見つかったりという結果に繋がります。これが、面白いのです。なのでディスカッションは具体的なテーマで行う、と決めました。
Aは、「楽しそう」であることをイメージしました。理由はシンプルで、楽しくない場にリピーターはつきませんから。例えテーマが深刻でも、最後は笑って終われる前向きな場になることが必須だと思いました。実際にプロジェクトや事業を進めていると次から次へと問題が降ってきますので、そんな中で自分のモチベーションを保つことは簡単ではありません。だからこそモチベーションをあげたり、ポジティブ思考にシフトするための装置は大事だと思っていますし、フューチャーセンターはそういう場でありたいと思いました。数時間のディスカッションの中で問題解決にまで至るのは現実的ではありませんが、次の一歩が見えたり、その一歩を踏み出すモチベーションを得たりすることはできます。ただ、そのためには批判する文化をつくってはいけません。一見実現が難しそうなアイデアに対しても、「そんなの無理だよ」ではなく、「こうしたらできるんじゃないかな?」という意見が出る風土が必要です。そこで、ここは「できる理由」を考えるために脳みそを使う場にしようと思いました。できない理由を考える場は世の中にいくらでもありますから(笑)、それによって差別化にもなるなと考えました。なお嬉しいことに現在リピートしてくださる方には「ここに来ると何とかなるんじゃないかなと思える、前向きになれる」と言っていただけていまして、それがまさに目指していたところです。
で、ここまで来たらもうBも明確になっています。
実際にフューチャーセンターが動き出してからは、目指すゴールのビジュアルイメージとしての写真も手に入れました。それがこれ。こういう表情の人が社会に増えたらいいなーと思い、ところどころに貼ったり見せたりして、「こういう場を作りたい」ということを伝えるためのツールにしました。
また、1年以上が経って写真も増えてきたので、最近ではこちらの写真もよく使います。色んな人が一緒に笑っていていいかんじ。ペーターが後ろ向いてるけど(笑)。
また、ゴールを実現するのは私ひとりの力ではなく、皆で一緒にやるのだということも学生に分かって欲しいと思いました。国保ゼミは個性的な学生が集まりやすく、自分のこだわりを大事にする人たちなので、そういう人たちと同じ方向を向いて進んでいくのはけっこう難しい(笑)。各種のコンフリクトはしょっちゅうだし、私が指示をしたところでまずそのままは実行してはもらえません。別に私の指示には従わなくてもいいけど、皆で作り上げるんだという意識は持って欲しくて、そのために場の象徴となる楕円のテーブルを1,2期生全員でつくることにしました。形としてはハンセンのスーパー楕円なのですが、その楕円の型をベニヤ板で学生が作り、それを渡して職人さんに作ってもらうことに。案の定、この作業の過程でゴタゴタがあったり、適当な仕事をする学生がいてラインがゆがんでいるところがあったり、作ってみたら本家のスーパー楕円とは形が違ったりしたんですけど(笑)、それも全部含めてプロセスを共有できたことがゼミ生間のチームビルディングになったと思っています。自分たちで作ったという感覚はテーブルに対する愛着をもたらすし、ひいては場への愛着に繋がるといいな、と思っています。そして皆で一緒に作業するのはシンプルに楽しいよね。
テーブルの型どり風景。喧嘩というストーミングからの、ノーミング。
こうやってまとめると順調な感じですが、実際には紆余曲折がありました。上記の思考も最初からあったわけではなく、振り返るとこういうことを考えていたんだなあ、という後付けの整理に過ぎません。そもそも世の中に存在しないものをカタチにするという作業なので、暗中模索というか、何が正しいのかさっぱり分からない状態で動いているので効率も悪いです。フューチャーセンターをやろうと決めたのが3月22日、ゼミ合宿が3月25-26日、設立するぞ宣言をしたのが5月30日、研究室の環境整備をしたのが9月頭、実際に1回目の定期フューチャーセンターを開催したのが9月28日で、その間それなりに時間がかかっています。
一番大変だったのは3月26日から5月30日の間の、フューチャーセンターとしてのゴールイメージをつくるところでした。完璧なイメージができてから始めなければという考えにとらわれている一方で、そもそも参考になる事例がないので、検討会議をやっても全然前に進まない。どうしようどうしよう、と言い合うだけでポイントをおさえられない話し合いが続くという時期がありましたが、そんなときに中村さんに、「とりあえず設立宣言しちゃいなYO!細かいことあとから考えればいいYO!」くらいのノリで言われたことをきっかけに、んじゃまあとりあえず始めて走りながら考えますか、という考え方にシフトして、先も分からないままに5月30日に設立宣言だけしちゃいました。今思うと、これが大きかった。ちゃんとイメージが固まるまで待っていたら、たぶん一生立ち上げられなかっただろうと思います。世の中にないものを作るときは、ざっくりとした仮説で見切り発車して、行動しながら修正するといういわゆる仮説思考は大事だなと思います。
そんな過程を経て開催された、記念すべき第1回定期フューチャーセンター
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