NPO法人G-net発行
岐阜「中小企業と若者」就職白書vol.1 岐阜の学生の意識編
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この調査のメインは、大学生の就職活動に関する意識調査です。具体的には岐阜県の大学(岐阜大学・岐阜聖徳学園大学・岐阜経済大学・朝日大学)に通う学部4年生と修士課程2年生合計106名で、調査時期はH24年1月〜2月ということなので、就活を経験した後の学生の意識調査ですね。なので想像ではなく、就活を通じて感じた中小企業の印象です。岐阜県は県外への人口流出が進み、しかも流出する人口の6割が20-30代(H23岐阜県長期構想より)なのだそう。
この調査からはまず、「中小企業の就職を視野に入れている」と回答した学生は72%、「多少入れている」が17%で、合わせて89%が中小企業への就職についてポジティブであることが分かります。「学生は別に大手志向というわけではないよね」と肌感覚では感じていましたが、数字でみると説得力ありますね。
では、学生はちゃんと視野に入れているのに、なぜ「大手志向」という印象になるのか。それについては、情報収集ツールがバイアスになっています。下記は「就職活動において活用していた会社を知るためのツール」(p17)より一部抜粋したものです。
これを見ると、学生の情報チャネルがマイナビ・リクナビ依存であることが分かります。大学就活支援課は36.8%、学内求人情報は19.8%と、大学内の情報はあんまり見ていない。これは私の感覚値としても納得するもので、学生と話をしていると就活においてはリクナビマイナビに載っていない会社は存在しないに等しいです。この2つでも相当数の企業が載っていますから、さらにそれ以外に目を向けるというのは難しい。しかし、マイナビへの掲載料金は最低35万円です(マイナビ料金表・リクナビ料金表)。ある程度の人数を採用する企業ならともかく、1,2名の採用枠ならばここまでのお金と手間をかけられないでしょうね。でもここに載らないと学生の視界に入らない、という構造です。
一方で、「参加した合同説明会」(p19)を見てみると、リクナビ66.0%、マイナビ66.0%に大学内で行われる学内企業展62.3%が肩を並べています。つまり、学生が気軽に出かけられる学内企業展がリアルの情報チャネルとして有効であると言うことですので、マイナビに出稿しなくともここに出展することで学生との接点はできます。実際、私の肌感覚でも、学内説明会で中小企業への就職を決めている学生は少なくないと感じます
では情報チャネルの構造は分かったとして、次に載せるコンテンツについて。以下は白書の「企業を見るうえで大事にしていること」(p20)のトップ10と、私が個人的に気になった要素(黄色バー)です。
「給与」や「福利厚生」って学生はあんまり気にしないなあと感じていましたが、それが証明された形になりました。もちろんあるに越したことはないですが、それで決めるというわけでもないというか。それよりも「仕事内容」や「やりがい」が大事なのです。また、「知名度」も5.7%とかなり低いですね。知名度が高いと親に賛成してもらいやすいという利点はありますが、学生個人はあまり気にしていないことが分かります。「経営者の魅力」が7.5%と低いのは、就活の中では経営者の顔が見えにくいのか、魅力ある経営者が少ないのか、どちらが原因なのか気になるところです。
さて、仕事内容とやりがいがある企業ならば知名度はなくとも学生は興味を持つというところが明らかになったところで、そもそも中小企業にこれらの要素は揃っている(と学生が認識している)のか、という点について、白書の「中小企業のイメージについて」(p15)を見てみます。この中で、「非常にそう思う/まあそう思う」と回答した学生が50%を超える項目を挙げてみると、以下のようになりました。青色バーがポジティブ要素、黄色バーがネガティブ要素、灰色バーがニュートラルな要素です。
これを1つ上のグラフと一緒に見ると、少なくともポジティブ要素に関して言えば、中小企業には十分勝算があります。「成長できると思う」82.1%、「やりがいがあると思う」82.0%、「雰囲気がいい」67.9%って学生が感じてるわけですし。さっきは低かった「経営者に魅力がある」も64.2%と高い数字になっています。一方でううむと思ったのは、「優秀な人が少ないと思う」(79.2%)。鶏が先か卵が先か問題でしょうか。ただこれは、入ってから活躍する場が多いということだとも言えます。
とりあえず、学生が気にする仕事内容ややりがい、雰囲気を提供することができるならば、中小企業だって採用競争力はありそうだということが分かってきました。ところが次に、チャネルによってコンテンツが異なるという問題が浮上します。
白書の「リクナビ・マイナビと学内求人情報の掲載情報の比較」(p32)より、リクナビ・マイナビには載っているのに学内求人情報には載っていない項目として、「仕事内容」「経営理念・企業理念」「社内の雰囲気・社風・風土」「先輩社員紹介」「採用担当者から」「編集者から」が挙げられています。一方で共通して掲載されている項目は、「会社名」「会社所在地」「勤務地」「募集対象」「給与」の5項目です。ここで分かることは、大学生の中小企業に対するイメージ調査から競争力になりそうな要因であることが分かった「仕事内容」「やりがい」等の情報が、リクナビ・マイナビには載っているのに、学内求人情報には載っていないという事実です。一方で両者に載っている5項目は、大企業が有利に、中小企業や規模の小さい会社が不利になる情報であるということが指摘されています。リクナビ・マイナビで大企業の情報を見まくった後に、学内求人情報で中小企業を見る学生が、どういう印象を持つかは明白ですよね。
ここまでの分析で、自然に大手企業志向になる構造が見えてきました。
では、新卒大学生を採りたいと考えている中小企業はどうすればいいのか。マイナビ・リクナビに出稿するのがおそらく一番早いです。しかしそこまで採用コストをかけられない場合は、大学の学内企業展に出展するといいと思います。ただここで注意しなくてはならない点は、そのタイミングです。
「大学生が履歴書を作成し就職試験を受けるピークは3月だと言われており、この時点ではすでに就職先としての選択肢に入っていなければならない。それが大学内の求人情報やハローワーク、ジンチャレにおいては3月の時点ではまだ掲載企業が少ないという状況であった。これでは岐阜県内企業が大学生の就職先としての選択肢に入ることは難しい。」(p30より)
なので、大学3年生の3月までに視野に入るタイミングで、出展せねばなりません。中途採用は通年だし採用から入社までの期間が短いですが、新卒はそこが1年以上あることということを知っている必要があります。そして出稿・出展する際には、仕事内容とやりがいがあることをちゃんと伝えることが大事です。
新卒採用を始めようかと考えている中小企業さんは、岐阜県でなくとも「就活白書」を読まれるといいと思います。大学の就職支援課や中小企業に就職を決めた学生のインタビュー等が載っており、参考になりますよ。
一方で、そこまでして新卒大学生を採るメリットは何なの?という声もあろうかと思いますので、それは後日まとめたいと思います。
※ちなみに、私が所属している学部はかなり就職率がよく、「サンデー毎日」(毎日新聞社)が2012年8月12日号で発表した「学部系統別就職率ランキング」によると、全国の国公私立大学の商・経営系において94.3%となんと全国第1位なのだそうです。2012年3月の商・経営系の全国平均就職率が74.6%ということを鑑みると、かなりいいと言えるんじゃないでしょうか。