行き先は小倉。2年前に「起業家支援機能付きカフェバー」cafe causaを起業した知り合いのその後を伺いに行きました。このT矢さんとは、慶応ビジネススクール時代に手掛けていた「地域起業家養成研修」のコンテンツ提供元と、受入地域エージェントさんという関係で知り合いました。当時は行政の起業家支援インキュベーション・マネージャーというカタいお仕事だったので、脱サラして飲食業をやる、しかも起業家支援機能もつける、という話を聞いたときはええっと思いましたが(笑)、もともと飲食業の経験は長く、インキュベーション・マネージャーのほうが仮の姿だったんですねえ。納得納得。けっこうハコは大きいし、2階のスペースはタダで貸しちゃってるし、一見無謀なように見えましたが、今回2年間を振り返りながら改めてちゃんと話を伺うと、非常に地に足がついた意思決定をされてました(って私がいうのもエラそうですが)。経費の考え方とか、飲食業としての基礎機能をきっちり抑えつつ、インキュベーションという付加価値をつけて、うまくシナジー効果を作っていらっしゃいます。これ、言うと当たり前だけど、飲食店としての基礎がないのにイベントが多いとか時々いらっしゃいますね。でもいくらイベントという付加価値があっても、不味くて接客のイマイチな店には固定客がつかないので、やはりうまくいかないようです。ないと不満につながる基礎機能、あれば満足に繋がるけど無くても不満にはならない付加価値機能、という区別は大事。
お店に集う人と人を繋げて価値を作りだすというところは、まさにコミュニティ・デザイン。T矢さんは、この概念が世の中に浸透していないときからやっていた先駆者です。産み出している価値は新規事業。
ところで東京で10年ほど働いて、現在は静岡に拠点を置いている身として、最近、東京にいたころは見えなかった地方の側面がよく見えるようになってきました。地方wayが東京wayに遅れているのではなく、本質的に違うものだということも何となく分かってきた。だから、例えばこういうコミュニティ・デザインを事業にするというのは、地方でやるほうがチャンスがあると感じます。コミュニティも市場も小さい分、集積率がとても高いし、経済価値以上に信頼をベースにした意思決定が行われることが多いから。ただし市場が小さい分、先行者しか残れないのも事実なので、東京のビジネス以上にスタートのタイミングは大事だと思います。
今回非常に実感したのは、「アントレプレナーというのは、皆にはまだ見えていないものが見えている人なんだな」ということ。今でこそ小倉のベンチャーシーンでは有名なT矢さんですが、2年前の起業当時はとても無謀な意思決定に見えました(すみませんw)。でも今はこんなにしっかりとした結果を出していらっしゃる。その上で起業当時の話を伺うと、この人には世の中にまだ存在しないものが既にイメージ出来ていて、しかもその実現に必要なリソースのアクセス方法まで見えていたのだな、と感じます。そしてそれを実現するために踏み出すのは今しかない、という感覚もあると。一方で周りの人は、アントレプレナーが見えているものの半分も見えていないから、(その半分しか判断材料がない状況では)起業が無謀な判断にしか見えないんだろうな。でも実際にはその倍のことが見えてるわけだから、アントレプレナー本人にとってはかなり慎重で堅実な判断だったりするわけですね。
さてさて、そんな感じでほおーと思いながらヒアリングしていたわけですが、流れで彼がアドバイザリーボードとして関わっている事業の1つを案内してもらいました。古い雑居ビルのリノベーションによるインキュベーション施設、メルカート三番街。
メルカート三番街は中屋興産株式会社が中心となって推進するプログラムで、古いビルを活用した文化芸術創造のためのクリエイターや商店主のための拠点づくりと、その場所で行われるプロジェクトの総称です。築50年のビルをリノベーションし、この場所から様々なモノとサービス、情報を発信します。私たちは、アーケード型商店街に立地する、この場所の最大の魅力と特性を生かし、クリエイションと商店主を志す若い世代への支援を通して、小倉魚町の活性化を目指します。
支援内容
1. 低家賃での賃貸
2. 起業・法人化支援
3. 付近の既存空き店舗への移転支援
目的
1. 魚町・小倉・北九州市の次代を担う若い世代と事業を育成する。
2. 人材・産業を育成することで、魚町旦過地区にさらなる人の回遊を生み出す。
3. プログラムを通して入居者を媒体として商店街周辺店舗の人々の繋がりを作る。
4. 上記の3つを通じて周辺の商店街全体の活性化を目指す。
(リンク先より)
このメルカート、とっても素敵なリノベ施設でした。上層階はまだ工事中のところもありますが、1階にはフラワーデザイナー、照明デザイナー、カフェ、インテリアや洋服、グッズのアーティストといった、クリエイティブ系のお店が入っており、通り抜けるだけでも楽しい。リノベなので施設そのものは古いんですけど、タイルや佇まいがレトロかわいいのです。そのほか、4階には文化発信の複合スペース「フォルム三番街」という施設があり、クリエイターや若い起業家のためのインキュベーションスペースとなっているそう。
このメルカートは、北九州市が推進している小倉家守(やもり)事業のリーディングプロジェクトという位置づけなのだそうです。「家守」とは、地域を支える新しい産業振興や中心市街地の賑わいづくりにつなげるための、実践的なオフィスビルの空室活用手法というかまちづくり手法らしいです。現時点では完全に民間で運営していますが、行政は先進事例をして注目しているそう。こういう、1)まずは民間がやりやすいやり方でやる、2)先行事例をもとに行政が支援する、というアプローチはいいですね。
あと、最上階には隠れ家っぽいオープンスペースもあり、このビルを運営している中屋興産株式会社の理念が掲げられていまして、これを見るとこのリノベ事業が単なる慈善事業でも商売でもなく理念に基づいたものであり、自分を育ててくれた魚町という町への想いが込められていることがよくわかります。町の存続というものは、中屋さんみたいな人が何人いるかで決まるんじゃなかろうか。
視察のあとは、T矢さんのお店でお食事をさせていただきました。そしたらT矢さんとの共通の知り合いで気地域起業家養成研修OBのH窪さんがたまたまその日福岡にいたとかで、お店に現れたんですよ!!すごい!H窪さんは普段は長崎県の五島列島という離島に住んでいるので、滅多に会う機会なんてないんですよ〜。なのに福岡県は小倉で会えるこの奇跡。嬉しすぐる。私はOBさんに会うのがとってもとっても好きですが、H窪さんは五島でヘッドスパのビジネスを始めていました。
名前の由来は、五島弁でモンテ=揉みます、カンゲ=髪・頭という意味なんだそうです。いい名前!贅沢にも五島産の椿油を使ったヘッドスパはものすごーく気持ちがいいだけでなく、椿油が頭皮と相性がいいために毛根が活性化するそうです。で、毛根が活性化するためしばらく通うと増毛になるとかならないとか。なのに五島でそのサービスを提供している人はいなかったそうです。すごいなー。それ以外にも、話をきいてて感じるのはH窪ねーさんの引きの強さ。チャンスの神様に愛されるってのも起業家には大事な特性だけど、H窪ねーさん、愛されてるわあー。近いうちに、絶対五島に行こうと誓った夜でした。
T矢さんとcafe causaの風景。スタッフが美形揃い・・・。サバ缶は3月8日のサバの日を控えて、経堂のさばの湯さんから送られてきたそう。嬉しいことに静岡・清水産でした。
そんな感じで楽しい小倉の夜でした♪