この元は三越鹿児島店のマルヤガーデン、既存の「デパートメントストア」が環境の変化に合わなくなってきていると判断し、顧客やテナントなどすべてが有機的につながり合う「ユナイトメントストア」をテーマに大幅なリノベーションを実施。その際、各フロアに「ガーデン」と呼ばれるオープンスペースを配置し、地域のコミュニティ(NPO法人や民間団体など)がイベントを開催できる場所を提供しています。
マルヤガーデンズについての詳細は、このあたりのサイトをどうぞ。→ Studio-Lマルヤガーデンズプロジェクト、マルヤガーデンズとランドスケープマネジメント
マルヤガーデンズで行われるイベントについては、こちらをどうぞ。 →マルヤガーデンズ ガーデンイベントスケジュール
非営利活動とビジネスの融合に興味がある私としては、一度自分の眼で見ておきたい事例だったのですが、このたび機会を得て、関係者にヒアリングしてきました。ちょうどリニューアルオープンから2年後ということで、最初の想定と実際の成果、そこにどんなギャップがあったのか等々も伺えて大変得るものの多い視察でした。事例としてどこかにまとめたいと思いますが、とりあえずここでは写真でレポートしておきたいと思います。
第一印象は、「非常にセンスのいいデパートだなあ」でした。私くらいの年代だと、大手老舗デパートはちょっと年齢高い印象だし、パルコのようなファッションビルはギャルすぎて、ターゲット層として端境期だなーと感じます。しかしマルヤガーデンズはビンゴという印象。近くにあったら絶対通うと思います。訊ねてみるとやはりターゲットは30〜40代女性ということで、なるほどね、と。そこにターゲット層を置いた理由は、周辺の商業施設とずらしたかったからだそうですが(三越鹿児島店時代はもっと上だったとのこと)、言われてみると、例えば静岡にもこの層に絞り込んだ商業施設ってないよね、と気づく。勝手な印象だけど、東京でいうと伊勢丹の新宿店みたいな位置づけなんじゃないかな。
このマルヤガーデンズ、ディティールがいちいちカワイイ。
左上:緑化されたエントランス。グリーンがあるのって和む。
右上:フロアマップ
左下:フロア案内
右下:各階にある案内モニター(リンゴ社製)とガーデンのサイン。ガーデンの横には必ずこの白いタイルの壁面があるのですが、これは白薩摩(焼)なんだそうです。美しくオシャレ、かつ地域色!
まずは1階の「garden1」を見学し、ガーデン・コーディネイターさんにお話を聞く。
もとはエントランス入ってすぐのコーナーにある部分(写真左)がgarden1だったそうですが、現在そこはマーガレットハウエルの店舗になっており、その隣にある半分くらいの面積の部分(写真右)がgarden1です。この変更の理由は、1)元の部分は2面が通路に面しており、お客様が通り抜けてしまうためじっくり見てもらうという感じにならなかったこと、2)施設のイメージを決める顔の部分なのでイベントとのマッチングが難しく、定期的に開催することが困難だったこと、だそうです。確かに入ってすぐのところにハウエルがあるのって、マルヤガーデンズのイメージととても合うし、私の第一印象(「センスいいな」)を決定づけたのはこのハウエル店舗とその横にあるフラワーショップだったな、と振り返ってみて思う。なお現在のgarden1は、上のフロアに出店が決まったお店がテスト出店して、宣伝と顧客動向をつかむ機会として使われることが多いとのことです。
続いて地階の「garden0」。
食料品のフロアである地階には、素敵なキッチンスタジオ「まるやの台所」がありました。この日は、上階のケータリングのお店が作業のために借りていましたが、普段はスポットの料理教室などに使われるそうです。料理教室の主催者は、けっこう有名な料理研究家から料理自慢の主婦まで。システムとしては、マルヤ側は場所貸し料金(かなり安価)を取り、料理教室の価格設定や集客、仕入れ等は主催者がすべて行うそうで、つまり主催者の利益はその方のビジネス手腕次第ということになります。よくあるのは、商業施設が企画して、定額の謝金で講師を招聘し、価格設定や集客は施設責任というモデルですが、ここは違う。顧客ニーズを正確に把握したいプロや、腕試しをしたい素人さんにはいい機会提供だと思います。あと、写真右下はこのgarden0の前でやっている地域の福祉作業所の商品販売コーナー。 情熱大陸でも見たなあ。作業所で働いている自閉症の方が接客に立つこともあるそうですが、ここで接客をすることで元気になって退所に至るという例が何件か出たらしいです。その結果、「人手不足が悩み(笑)」なんだとか。
さて2階のレディスアパレルのフロアは、現在ガーデン運営はやっておらず、店舗が入っていました。「美に関するコミュニティ」のガーデンのイベントはうまく集まらず、あるいは希望が来ても匂いが出る等周りのテナントがNGを出すようなものが多く、その結果空きスペースになることが多かったそうです。美に関するイベントなんてたくさん希望がありそうなものなのに、ちょっと意外でした。で、フロアに空きスペースがあるとあまり感じがよくないという声がテナントさんからあり、店舗にしているとのこと。大変興味深い現象です。
一方、人気は4階ライフスタイルのフロアにある「創造に関するコミュニティ」。garden4は写真左上の半解放の部分ですが、その右手にもオープンエリアがあり(写真右上)、その隣にはデリとカフェがあり(写真左下)、そのカフェの手前にもオープンエリアがあります(写真右下)。
私達が訪問したときは、garden4のみを使って鹿児島出身の東京の美大生が卒業制作の展示をやっていましたが、このガーデンの魅力は、garden4からカフェ前のオープンエリアまでが繋がっているので、ここをすべて使ったイベントが組めることだそうです。確かに、例えばgarden4で展示やって、その隣のオープンエリアで主催者と来場者がコミュニケーションして、そのまま来場者にカフェに流れてもらってパーティ、という動線でイベントをデザイン出来るのですごく使い勝手が良さそう。いいね!
なお、4階にはD&DEPARTMENT PROJECT KAGOSHIMA by MARUYAがあります。このショップも素敵だけど、目を引くのはショップの横の壁にあるこのディスプレイ!白い壁に黒いビニールテープで鹿児島の地図が書いてあります。んで、そこにポストイットでおススメのお店が貼られてるの。ポストイットはお客さんが貼っていくんだとか。これは楽しい〜。
その他にも、3階アクティビティのフロアの「garden3 生活に関するコミュニティ」(写真左)とか、6階書籍(ジュンク堂)のフロアの「garden6 教育に関するコミュニティ」(写真右)などを見せてもらいました。
garden3は、同フロアに好日山荘などアウトドア系の店舗が入っているので、例えばトレッキングに関するイベントを開催してトレッキング用品などを紹介し、来場者がそのまま好日山荘にいって商品を購入する、などといった流れが作れるそうです。garden6は唯一の扉のあるガーデンで、かつ位置が分かりにくいのでちょっと秘密の場所みたいな雰囲気が漂います。ここでは、文章教室などが開催されたりするとのこと。
そして7階地域のフロアには、素敵な映画館とカフェスペースが〜。
左は「ガーデンズシネマ」の入り口。もうこの佇まいが素敵!!なおここは天文館地区として約4年ぶりの復活となる映画館なんだそうですが、目の前のカフェスペースを兼ねたgarden7で上映映画と連動したイベントを打つことも多く、ファンも多いとか。これからの映画館経営は、大規模なシネマコンプレックスか、こういうコミュニティごと運営する単館の二極化なんだろうなあと思わされました。
これらのガーデンズでのイベントは、ガーデン・コーディネーターと呼ばれるマルヤの社員さんが窓口となり、マルヤのイメージに合うか、既に入っているテナントさんとカニバらないか、等を調整しています。ちゃんと担当者がいるというのが大きなポイントですね。場所貸し料金はNPOでも払える超良心的な価格でしたが、ガーデンズの稼働率がけっこういいので、月間売上も思ったよりいい数字でした。場所貸しビジネスとして成立するほどじゃないけど、社会貢献だけでやっているわけでもないなという感じ。ガーデン・コーディネーターさんは目的関数として売上ではなく「賑わい」を意識しているとのことでしたが、実際、賑わいと売上は連動するそうです。
そんな感じでとっても楽しいマルヤガーデンズ視察でした♪