2006年06月12日

米国ビジネススクールのソーシャル・アントレプレナーシップにまつわる活動

ちょっと古いネタなのですが、2004年に米国ビジネススクール(スタンフォード大学ビジネススクール、カリフォルニア州立大学Davis校のHaasビジネススクール)を訪問し、それらのビジネススクールで行われているソーシャル・アントレプレナーシップにまつわる活動を調査してきました。論文に使った文章の転載なので、ちょっと言葉が堅いですが。

ちなみに、他にもハーバード・ビジネススクールがThe Social Enterprise Initiativeというのをやってますが、それはまたの機会に。

Stanford Graduate School of Business
Center for Social Innovation
http://www.gsb.stanford.edu/csi/

【設立目的】
Center for Social Innovation(以下CSI)は、スタンフォードビジネススクールがその知的財産を持って社会に貢献することを目的に設立された。パブリックやノンプロフィットセクターの経営に対する、当ビジネススクールの長期的なコミットメントをもとに、研究・授業・提携などを組み合われた形でソリューションを提供している。当センターは伝統的なセクター間の境界を崩し、様々な関係者を巻き込む形でコミュニティへの貢献活動を行っており、Stanford大学全体から40人以上の学者がこのプログラムに参加している。

【ミッション(原文)】
The Center for Social Innovation fosters innovative solutions to social problems by enhancing the leadership, management, and organizational capacity of individuals and institutions pursuing the creation of social and environmental value.

【活動内容】
研究・授業・提携を統合した形で活動している。

・研究
幅広くカバーした研究活動が行われている。学際的な研究も効果的なアプローチと捉え、奨励している。以下に研究の一部を示す。
- Environments in which social innovation occurs
- Benefits and limits of adapting business approaches to social- and public-sector organizations
- Impact of increased interaction and competition across the sectors; and
- Creation and measurement of social and environmental value.
- Nonprofit Board Governance Research Project
- Pathways to Social Impact: Strategies for Expansion, Replication, and Dissemination in the Social Sector
- Effects of Comparative Organizational Form on Performance, Efficiency and Effectiveness
- The Efficiency of Social Capital Markets

・授業
MBAカリキュラムの内外で、社会の効率化を推進するリーダーや、ノンプロフィットまたはフィランソロピックなリーダーになるためのクラスを提供している。MBAコースのPublic Management Programに25以上ものコースを提供しており、ケース教材も60ほど保有している。

・提携
会議やワークショップ、ボランティアのコンサルティング、研究プロジェクトを通じて、大学・卒業生・コミュニティを巻き込みながら、理論と実践を統合した形で社会的なリーダーと協働している。

【インタビュー内容】
・CSIは、ソーシャル・アントレプレナーシップにおける第一人者であるGregory Dees教授をハーバード・ビジネス・スクールから引き抜いて創設された。
・もともとスタンフォード・ビジネス・スクールはノンプロフィットや公共経営に関しては長い歴史を持っており、その延長線上として、セクター間の境界をなくしたソーシャル・ベンチャーの研究を展開している。
・ソーシャル・ベンチャーについては、CSIは「社会的イノベーションをもたらすものは全て」と広範囲に定義している。
・CSIの活動の中には、Social Marketingや、Executive Program for Non-Profit Leadersのような公共色の強いコースのビジネススクールへの提供や、"Social Innovation"というソーシャル・セクターにおけるハーバードビジネスレビューのような雑誌に出版なども含まれる。
・スタンフォード大学はもともとPublic Managementのコースで有名で、そのコースを取るためにスタンフォードビジネススクールを選択する学生も多く、Social Sectorのコースに対する興味も潜在的に高い。実際、卒業までには全学生が1つ以上のPublic Managementに関するコースを履修するとのことで、CSIは学校の差別化にも貢献している。
・スタンフォード大はその学費の高さでも有名であるが、それにも関わらず卒業後の進路としてNPOやパブリックセクターを選択するMBA生が4〜7%存在する。また卒業直後ではなくとも、しばらくプライベートセクターで働き学生ローンを完済してから、ソーシャル・アントレプレナーシップビジネスに戻ってくるというのもよくあるパターンである。
・CSIの現在の課題は資金で、スタンフォードビジネススクールの出資を受けているが未だ潤沢とは言えず、今後はよりいっそうのファンドレイジングが必要である。



Haas Business School
Center for Responsible Business
http://www.haas.berkeley.edu/responsiblebusiness/

【設立目的】
Center for Responsible Business(以下CRB)は研究・教育・経験的学習とコミュニティへのサポートを行うための教育機関として、Haas School of Businessがより持続可能かつ倫理的に社会的責任を実現するべく2003年1月に設立された。

【ミッション(原文)】
To educate our stakeholders on the roles and responsibilities of business in society through research, teaching, experiential learning, and outreach. To integrate the discipline of corporate responsibility into the general management core. To act as a catalyst in creating a new generation of business leaders who are committed to and knowledgeable about corporate responsibility. To serve as an educational center that bridges research, theory, and practice of corporate responsibility.

【活動内容】
当センターは以下4要素の連携を提供する。
@ソーシャル・パフォーマンスの評価
信頼性と透明性、報告と標準化、計測と評価指標。
Aソーシャル・エンタプライズ
利益、社会的責任投資、ベンチャー・フィランソロピー、資本調達を伴い、ソーシャル・ミッションと統合した形でデザインされたビジネス・ベンチャー
B企業の経営とガバナンス
ガバナンスモデル、行動規範、行動指針、役員報酬、ステークホルダー関与、責任ある雇用慣行、サプライチェーンマネジメント、人権と労働問題、セクター間協働、世界的な責任
C環境イノベーション
持続可能な開発、環境管理、自然資本主義、環境市場機会

・研究
当センターは、学術と実践の双方における企業の社会的責任(CSR)研究の先駆者である。開発初期はステークホルダー関与と透明性の確保、より具体的には定量評価指標と効果測定に重点を置く。バークレー校はもともと、ポジティブな社会変革にコミットする機関であると同時に、定量評価に長けていたため、これら2つの強みを組み合わせることで発生期であるCSRの分野で持続的な貢献が可能である。当センターでは、優秀な学生や教授や客員研究員が企業の社会的責任投資に関する課題に取り組み、学会や会議での発表、ケーススタディなどの形で成果をあげている。

・教育
Haasビジネススクールは、企業倫理や社会的責任研究の長い歴史があり、基礎科目と選択科目の両方で当分野の豊富なコースを提供している。全てのバークレー校の学生が、倫理とビジネスと公共政策のような重要分野を基礎科目として学んでおり、更に専門性の高い教育は、選択科目やCSR活動に従事するカリキュラム外のインターンなどの機会として提供される。CSRは当校の経営者教育における重要なコアコンポーネントであるため、選択科目としてより専門的に学ぶ機会を与えると同時に基礎科目としてもコースにも組み込まれるべきであると考えている。

・コースの例
- Business Ethics for the 21st Century
- Business Ethics & Corporate Responsibility
- Business Strategies for Emerging Markets
- Business & Society: Methods of Engagement
- Corporate Environmental Management
- Corporate Social Responsibility Speaker Series

・経験的学習
当センターのユニークなアプローチとして、CSRにおける経験的学習(Experiential Learning)という教授法がある。経験的学習は1930年代もの昔にDeweyによって開発された非常に効果的な教育技術であり学習プロセスと実践が結びつくことによって教育はより価値のあるものとなる。理論的な概念と具体的な経験の統合によってより効果的な学習が行われると信じているが、実際この教授法では知識の70%以上が身につくのに対し、通常の授業形式では30%に過ぎないという研究結果が出ている。したがってCSR分野においても、学習したばかりのCSRのフレームワークや概念を実際のプロジェクトで体験させるべく、学生が学外のリアルビジネスに携わることを奨励している。但しこれは授業内での理論やフレームワークの学習を削るということは意味せず、理論と経験を互いに密に関係させるよう努力している。当センターでは経験的学習をプロジェクト、インターンシップ、その他の機会という3つのカテゴリーに分類している。

・コミュニティサポート
当校のCSR分野における成功には、メッセージを社会に広く伝達し、実際の活躍しているCSRのリーダーを招き経験に基づいた指導を受けることが重要であると考えており、以下のような方法で実践している。

@Young Entrepreneurs at Haas (YEAH)
Haas校の教授、学生、スタッフは、地域の企業や能力開発に興味がある高校生に対し、無償でメンターやコーチを務める。Haasは世界中でもっとも大きく活発な支部の1つである。

ANet Impact
ビジネスキャリアを生かして社会面・環境面でのポジティブインパクトを作らんとするMBA主催の国際的な組織。世界中のトップビジネススクールに75以上もの支部があり、今日のMBAネットワークの中でもっとも先進的かつ影響力の大きいものである。Haas支部は最大の支部の1つであり、1999年には"leadership development, membership recruitment, and impact on the student body."について最も偉大な達成を成し遂げた支部に送られるNet Impact Leadership Awardを受けている。

BGlobal Social Venture Competition
1999年にHaasビジネス・スクールの学生主導で始まった、ソーシャル・ベンチャーを対象としたビジネスプラン・コンペティション。2001年5月にはコロンビア・ビジネス・スクールとゴールドマン・サックス基金が、ソーシャル・ベンチャーの全国的な基盤を形成するためのパートナーシップをHaasと結んだ。2003年6月にはこのパートナーシップは国際レベルで広がり、ロンドン・ビジネス・スクールが加わった。この世界最大のソーシャル・ベンチャーのコンペティションは、アカデミックと金融をつなげ、社会的または環境面でのミッションと収益を統合することに成功したソーシャル・ベンチャーの創出をサポートしている。賞金とベンチャー・キャピタリスト、社会的責任投資家、ソーシャル・ベンチャー・ファンド、フィランソロピストにアクセスするチャンスを目指して、世界中からチームが集まっている。

CNonprofit and Public Management
プライベート・セクターで働きつつ非営利または公共組織への関与を通じて社会に影響を与えようと考える学生をサポートしたり、非営利組織や公共機関でのキャリアに備えたりする。

DLoan Repayment Assistance Program
The Haas Loan Repayment Assistance Program (LRAP)はフルタイムMBAプログラムを卒業し、通常プライベート・セクターより収入の低いパブリックまたはノンプロフィット・セクターに職を得た学生に対する経済的サポートを行う。

ELevi Strauss Small Grants Program
Haasコミュニティの内外で、CSR分野の進展を促す革新的なアイデアを推進するために設立された助成プログラム。Haasコミュニティに対する草の根的な指導力を体現するものであり、学生、教授陣、スタッフに対して開かれる。

【インタビュー内容】
Haasビジネススクール内にある"Center for Responsible Business"(以下CRB)を訪問、当センターの取り組みについてインタビューする。

・当センターは2003年に設立され、研究、教育、経験的学習、コミュニティサポートという4つのアプローチを通じて、企業の倫理的・社会的責任に関するマネジメントを研究しており、その中でも特に効果測定と定量評価手法にフォーカスを当てている。
・Haas校はもともと企業倫理や社会的責任(CSR)研究に関する長い歴史があり、これらを当校の経営者教育における重点分野と位置づけているため、選択科目だけでなく基礎科目としてもコースに組み入れている。実践を組み合わせることでより深い学習効果を狙っており、地元のNPOなどでのインターンを奨励している。
・Haasはその独特なバークレー文化と共に、Net ImpactやGlobal Social Venture Competitionなど、学生主導で様々な取り組みを行っており大変ユニークである。

ただし当センターで聞いた話は「今後の大企業はCSRなしには生き残れないからCSRのプロの育成が必要なのだ」という論調で、コストベースまたはフィランソロピーベースの話に終始しており、ソーシャルイシューを如何にスモールビジネスとして実現するかではなく、あくまでCSRのプロの養成を目指しているようであった。



posted by Kokubo at 22:58| ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | ソーシャルとビジネス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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