米国スタンフォード大学のMBAコースは、MBAランキングの中でも常に上位に位置する名門です。レベルも人気も学費も高い当校ですが、意外にもここには社会活動を目的とした研究施設があります。
Center for Social Innovation
http://www.gsb.stanford.edu/csi/
このCenter for Social Innovation(以下CSI)は、スタンフォード・ビジネススクールがその知的財産をもとに社会に貢献することを目的として設立され、公的セクターやノンプロフィットセクターの経営に関する研究や講義などを通じてコミュニティへの貢献活動を展開しています。
CSIのミッションは「fosters innovative solutions to social problems by enhancing the leadership, management, and organizational capacity of individuals and institutions pursuing the creation of social and environmental value.」であり、まさにビジネススクールの真髄とも言えるでしょう。
私は昨夏このCSIを訪れ、Directorの方にインタビューをしてきましたが、知性と情熱に溢れた素敵な女性でした。
さてCSIの活動のひとつとして、季刊で
「Stanford Social Innovation Review」
((http://www.ssireview.com/)
を出版しています。これは「Harvard Business Review」のソーシャル・イノベーション版を目指しているそうです。本日はこのレビューの中の記事の1つをダイジェストで紹介します。
– Research News– “For Richer, or for Poorer?”
「貧困絶滅活動を行うノンプロフィットは、比較的豊かな地域より貧しい地域で多くの資金を投入している。しかし豊かなエリアに比べ貧しいエリアでは個人の受ける便益は少ない」というのが、マサチューセッツ大の経済学者Marcelliと南カリフォルニア大の地理学者Wolchによるロスアンジェルス地域の非営利活動における最近の調査結果です。
貧困率25%・投入資金20億ドルのロスアンジェルスカウンティのノンプロフィットと、貧困率15%・投入資金3.85億のオレンジカウンティのノンプロフィットとのデータを使用し、貧困地域においては機関数や支出額がより豊かな地域より多いにも関わらず、サービスを必要とする人も多いために結果として一人が受け取る便益が少ないということを証明しています。ロスアンジェルスカウンティが貧困絶滅活動に一人当たり235ドルを投じる一方で、一人当たりの貧困者の対策には945ドルを使っていますが、一方オレンジカウンティは貧困絶滅活動に一人当たり160ドルしか使わないにも関らず、一人当たりの貧困者には1,100ドルという手厚い対策を行っています。この差は、そのノンプロフィットがカバーする地域の特徴(年齢層、所得、民族など)に因るものであると述べられています。
さらにこの調査グループは、貧困率によって地域を5つにランクわけして平均値をグループ間で比較したところ、貧困率が低い地域のグループは平均で、1,693ドル×498人にサービスを提供しているのに対し、高い地域は平均780ドル×1,900人に提供しています。つまり貧困率が高い地域こそより手厚いサービスが必要であるにも関らず、現実は逆であるという現象を指摘しています。
また同じ統計データから公的資金投入とノンプロフィットの活動の活動の相関も証明しています。不均衡を調整するためにも、ノンプロフィットの活動を促進するためにも、公的セクターとソーシャルセクターの協働や政府の財政的支援が必要であると結論付けています。
この「Stanford Social Innovation Review」は、他にも著名なソーシャル・アントレプレナーのインタビューや、組織間に信頼を醸成するためのHow to、ケーススタディなどが豊富に盛り込まれており、米国の最新ソーシャル・ベンチャー事情がよく分かります。購入申し込みさえすれば、同じ内容がオンラインでも提供されます。ケーススタディなどは読むだけでも面白く、日米ベンチャー比較ならぬ日米ソーシャル・ベンチャー比較ができます。最新刊は一部Web上でPDFが提供されていますので、どうぞ一度ご覧になることをお勧めします。
参考資料「Stanford Social Innovation Review」 Winter 2003