2009年08月03日

第6回COO向けマネジメント研究会・レポート

第6回研究会が終了しました。
今回は23名の参加で、うち8名が初めてのご参加です。

今回はまたもや試運転のケースを用いましたので、ケース教材そのものは粗々でしたが、ケース当事者のSさんが当日はいらして下さり、ディスカッションの後にお話を伺いました。ケース+当事者レクチャーの両面のアプローチで、またいつもと違う学びがあったのではないでしょうか。

今回は、子供に関する社会問題を解決する事業を展開している株式会社・K社のケースを使いました。行政にはできないサービスを実装することで、規制と補助金どっぷりの業界構造を市場原理を使って切り崩し、収益性を高めることによってこれまで職業としては成り立っていなかった現場のスタッフに正社員というポジションを提供。共働き家庭支援(ひいては少子化対策)および若者の雇用創出という社会的価値を提供し、そして最後には、自分たち経営陣のこだわりよりも事業の継続・従業員や顧客の幸せを優先して事業を大手資本に売却しています。しかしSさんのお話の冒頭に「わが社はソーシャル・ベンチャーを標榜していません」という発言があったように、当人たちは完全に経済的リターン狙いのベンチャーとして事業を展開しています。

私は、企業というものは(一部例外はあれど)基本的に社会性を持っているものだと思っています。雇用や納税という間接的なアプローチか、事業内容という直接的なアプローチかはケースバイケースですけれども、周りの起業家や経営者さんとお話していても、ソーシャルな意識がある人は少なくない。会社とは何か、組織とは何かという根源的なところを考えると、ベンチャーもソーシャル・ベンチャーもほとんど変わらないと思っています。そういう前提に立っている私が、直感的に「これはソーシャル・ベンチャーだ」と感じたのがK社であり、Sさんなのです。でもSさんは一貫して「うちは普通のベンチャーです」と言う。このギャップが面白いなと思ったことと、ソーシャル云々はともかく行政の規制が逆機能を起こしている(だからこそ満たされていないニーズが多く存在する)業界でのベンチャーの立ち上げとして学ぶことがすごく多いなと思ったことが、今回研究会でK社を取り上げた理由です。

もう1つは、ソーシャル・ベンチャーも最終形(出口戦略)をある程度イメージしておくというのが重要かなと思っていまして、その1つの例を見せたいと思いました。別にIPOを目指すべしと思っているわけではないのですが、組織にしろその中で働く個人のキャリアにしろ、将来の姿がイメージできることのポジティブな影響って大きいと考えてます。終わりがあると分かっていれば辛いこともけっこう耐えられるし、先を見据えることで目の前の活動をこなすことで満足してしまうというレベルのもう一歩先を目指せると思うからです。

ところで自分の利益のために事業を始め、その事業を最終的に顧客や従業員のことを考えて大手資本に売却するというK社の経営陣の意思決定には深い敬意を感じます。でも、案外自分も、同じことを考えるかもしれない。個人の想いから生まれた事業が、成長とともに徐々に社会に対する責任を帯びてゆくのを見守り、最後には手放すというのは、事業に対する愛情があればこそのような気もします。だいたい、自分の手元に置くより幸せな嫁ぎ先が見つかるというのは、考えてみれば娘(事業)にとってはとても幸せな状況ですよね。

8月は夏休みで、次回は9月の予定です。ただ8〜9月は本業がちとピークになるので、もしかすると10月の頭くらいになるかもしれません。ご了承いただけますと幸いです。日程は決まり次第当ブログ上でご案内させていただきます。

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追記は参加者の感想です。

1.本日のテーマ「社会性と収益性を両立させるマネジメント」は役に立ちましたか?
・K社のことは事業スタート時から存じ上げていましたが、特に社会起業という認識はありませんでした。社会性やビジョン、ミッションが必要なのは社会起業に限ったことではなく、顧客に必要とされ、従業員がパフォーマンスを発揮する上では全てのビジネスに共通かと思います。(例えばリッツカールトンをはじめとするホスピタリティ産業などはたいていビジョン、ミッション、顧客価値を短期的な収益性よりも重視している) (KBS・平田さん)
・はい。収益を確保するために、競合との差別化や価値の訴求を行うことで売上を拡大していくだけでなく、オペレーションを効率化するなどコストとのバランスも考えながら経営していくことが基本でありながら、このようなビジネスにおいては簡単な事ではないことを改めて考えさせられました。(企業勤務・Cさん)
・本音と建て前のギャップ、ジレンマをケーススタディ以外からも学べた。Sさんご本人がいると大変リアリティーが増す。(慶應SDM/東京電力・山本さん)
・役に立ちました。非常に興味深かったです。ただ社会性と言っても限定された顧客のニーズに対応しているという意味で、収益性と社会性を両立させるのは難しいのかなと改めて思いました。(SVP東京/省庁勤務・Mさん)
・企業視点、収益視点から社会起業を見るという観点で面白かった。T社という収益のみでなく事業価値の向上を目的とする売却先をどうするか。(SVP東京/企業勤務・Iさん)
・役に立ちました。ソーシャルベンチャーの成功例ですね。当事者がソーシャルだと感じていないところが一番ソーシャルだと思いました。((株)ソシオエンジン・アソシエイツ/ソーシャル・イノベーション・ジャパン事務局・飯石さん)
・はい。運営が3人だったり、労働集約的モデルになったりとインパクトにも通じるところがいくつもあって参考になりました。(NPO・Aさん)
・IPO狙いから入っているということで、1つのアプローチとして勉強になりました。(菊池さん)
・とっても役に立ちました。ケースの中で売却先をT社に決めた理由の部分が一番強く響きました。あの結論に至ったのは、とことん事業にコミットしているからだと思いました。(NPOインパクト東京・森山さん)
・とても役に立ちそうです(笑)。というのも、今自分たちが出来ること出来ないことがあり、そのジレンマが生まれてきそうかも・・・?ただそのジレンマって前向きなものですよね。(NPOマドレボニータ・野田さん)
・実際に現場の方の声(ソーシャルベンチャーでないという意識)と社会からの評価(ソーシャルベンチャー的な評価)のギャップが興味深かったです。(慶應SDM・Oさん)
・勉強になりました。K社は、社会性をもった分野に収益性のある事業を展開したという印象を受け、一般企業以上に、両立したマネジメントを目指していたようには感じませんでした。ただし、人的マネジメントにおいては、現場スタッフの本来の想いである社会性に、ビジネスパーソン化という収益性を持たせる必要が出てきたため、両立を図る工夫をしていると感じました。(企業勤務・Oさん)
・役立ちました。「企業が行うサービスは社会性があるものである」という前提に立ち、いかに収益性を上げるかを追求することが重要であると学びました。社会性が強い云々に関わらず、収益性がないということは社会性がない、またはやり方が悪いのだという考え方であれば、事業性を担保するためにマーケットアウトで仮説検証し、やると決めたら「覚悟」をして進めるのだと感じました。(企業勤務・Kさん)
・はい。社会的価値と収益性を両立させるためのマネジメントが営利のみより高度という点、大学時代、無報酬でNPOにかかわってた経験から、まったく同感です。営利企業が、社会性の実現にお金をもっと使いやすくなる仕組みづくり、したいというのが、自分のライフワークになってくると思っています。逆に、社会性の高い事業をするNPO等にとっても、以下2点から収益性との両立が大事だとおもいます。@事業化の視点を持つと、とかく自分たちの実現したい価値を絶対の基準として事業展開しがちですが、収益性が、その事業の付加価値を高めるための一つのメジャーになります。また、A持続性を保つためには、収益が必要です。(KBS・下城さん)
・とても参考になり、考えさせられる事例でした。Sさんは「ソーシャルベンチャーだとは最初から思っていない」と話されていましたが、行政ではできない送迎個別対応や遅い時間までの預かりなど、まさに、社会問題の解決に取り組んでいる事業だと思いました。今までは行政がやるべきという意識であったところ、行政のサービス内容では満足できず、しかし資金力もある層をターゲットに、事業としてのモデルをつくりあげた発想は本当にすばらしいと思います。社会性と収益性を両立させるために、最初にモデルをしっかりとつくり、「人」にこだわった採用と研修に取り組むなど、最初に事業モデルをしっかりとつくりあげて変更しないことの大切さが印象に残りました。(東京都北区役所/SVP東京・齊藤さん)

2.本日のケース「K社」から学んだことを教えて下さい。
・ビジネスモデルをシンプルに保ちつつ、いかに付加価値を高めていくか。Progress means simplifying, not complicating. (KBS・平田さん)
・こういう会社をSocial Ventureと言うんだと思いました。(後藤さん)
・スタッフの運営に競争を取りいれることで、モチベーションをあげる点(いろどりさんにも通じる)。一次ニーズ、二次ニーズという設定の方法、ターゲットを絞ることがポイントだという点。(NPOインパクト東京・三宅さん)
・誰が何に対してお金を払うのか?シンプルに本質を考えることの大切さ。(SVP東京/企業勤務・Sさん)
・お金を出す人とサービスで本当に満足する人(主役)が異なるビジネスのあり方。経営者の覚悟(事業を社会のために手放す勇気)。(慶應SDM/東京電力・山本さん)
・ソーシャルビジネスといえども成功するためにはビジネスとしてきちんと営利を上げる仕組みを追求する必要があること。ソーシャルビジネスをやるときもエグジットを考えておく必要があること。(SVP東京/省庁勤務・Mさん)
・事業展開の際の資本の考え方、今後の観点、ミドル収益性事業をどうしていくか。(SVP東京/企業勤務・Iさん)
・社会的ミッションありきでビジネスについて事業モデルを考えると天井が見えてしまうこと、自分の手から離れても事業を拡大させるということ、などについて自分ならどういった要素で考えるか、大変勉強になりました。((株)ソシオエンジン・アソシエイツ/ソーシャル・イノベーション・ジャパン事務局・飯石さん)
・きちんとビジネスモデルを作ること、マネージメントの3人の役割分担、ニーズの調査の大切さなど。(NPO・Aさん)
・経営者は3人チームがよさそうに思えた。既存市場や人材のあるところにビジネス性を取り入れるのはやはりどこでも難しい。新規市場(事業創造型)事業はやはりお金が必要。(菊池さん)
・事業化することに徹底的にコミットすれば、(自然な流れに見える位)あらゆることが明確になる。(NPOインパクト東京・森山さん)
・やはり収益性を高めることの難しさを感じました。消費から投資へというパラダイムシフトが事業と結びついているところに感銘を受けました。(慶應SDM・Oさん)
・マーケットアウトの大切さを学びました。個人的な想いだけから事業を展開するのではなく、顧客ニーズに対応した事業展開の素晴らしさを学びました。(企業勤務・Oさん)
・事業を成長させて次のステップに行く際に、事業を誰が担うのかを意思決定するときの考え方を学びました。(価値ある事業の継続・展開なのか、経営陣の自己満足なのか等)(企業勤務・Kさん)
・@業種柄、また企業構造柄、外的インセンティブを用いてコミットメントを高められない状況の中、教育や、クレド他様々な内的インセンティブを高めることで、コミットメントを高め、高付加価値サービスの提供を実現させていることを知り、人が価値を生むような状態のマネジメントを実施しておくことは、社会性の高い事業を外部に金銭評価してもらう際、ひとつの鍵になるということを学びました。大変参考になりました。A本当は自分がやってあげたいけど、働くこととの天秤で、自分がやってあげることができないという親の安心というニーズをつかんだ点もすごいとおもいました。B自分がやることにこだわり、社会性を提供したいといいつつも、成長にキャップをしてしまう多くのベンチャーがあるという国保さんの示唆も、今後の参考になりました。(KBS・下城さん)
・自分たちが手放す覚悟で、「お客様のため、従業員のため、社会に貢献する事業を継続するため」という姿勢を貫きとおした経営陣の方々の判断に感動しました。ニーズ調査を徹底的に行うことによって、収益性を確保した事業を展開できるということがよくわかりました。(NPO等は、逆に先に事業があって、対象者をどうするかと逆になってしまうので、大きな違いです。)(東京都北区役所/SVP東京・齊藤さん)

3.本日のSさんのお話から学んだことを教えて下さい。
・M社さんのビジネスモデルはめずらしいとおもいますが、社内ベンチャー制度とかでもイグジットの時には同様の問題、コンフリクトが起きそうだなと思いました。(KBS・平田さん)
・プレゼンテーション技法、説得の技術。(後藤さん)
・人のマネジメント。どうやってスタッフを選び、教育し、業界の構造をも変えるか。素晴らしいと思いました。(NPOインパクト東京・三宅さん)
・エグジットに当たり、全てがHappyには納まらなかったのではと思っていたのですが、やはりいろいろあるのですね。(企業勤務・Cさん)
・「社会」に逃げる社会起業ではなく、事業に向き合う中で「社会」に向き合うことの大切さ。「社会」起業といってもやっていることは事業なんですよね。(SVP東京/企業勤務・Sさん)
・はじめからIPOを目指していくような覚悟を持て。(企業勤務・Yさん)
・モヤモヤしながらも一歩ずつ先に進んで来ること。フレームワークは現場でなかなか役に立たないと仰っていたが、理論や型を知っていることでの悩みや成長への意欲もあるだろうと思った。(慶應SDM/東京電力・山本さん)
・エグジットに当たっての意志決定の判断要素。ソーシャルビジネスに携われる人の給与水準・生活水準を上げていくことの重要性。(SVP東京/省庁勤務・Mさん)
・収益性が上がる事業にしていく工夫。事業のために判断をしていく姿勢。(SVP東京/企業勤務・Iさん)
・社会的ミッションと事業性・収益性という観点でどういった経緯でM&Aに至ったか、Sさんの想い(もやもやした迷いの部分も含めて)を伺うことができ、勉強になりました。((株)ソシオエンジン・アソシエイツ/ソーシャル・イノベーション・ジャパン事務局・飯石さん)
・Sさん自身にマネージメントなどの知識がきちんとあり、そこはインパクト東京に足りない部分だなと再実感しました。それに文面からは分からないこともたくさんあるんだなと思いました。(NPO・Aさん)
・ビジネス性ありきでも、市場を見るうちにやはり社会性について強く考えるようになるのはあるのかもしれない。(菊池さん)
・売却先をT社に決めた理由がとてもソーシャルだと思ったが、ビジネスを極めると結局ソーシャルに通じるのだと分かった。(NPOインパクト東京・森山さん)
・ソーシャルビジネスと敢えて言わずとも、ソーシャルかどうかは世間がどう見るかと言うこと。無理だと思われている保育のプロフェッショナルの評価基準が作れるのだということ。(NPOマドレボニータ・野田さん)
・現場の生々しいところというか、しっくりくる説明が聞けて、かなりこの事業の全体が見えるようになりました。(慶應SDM・Oさん)
・ランチのときに伺ったことになりますが、プログラムが主体になると市場が狭くなるとおっしゃっていたことが印象的で、自分自身が自己満足する企画を立てそうになっていたことに気が付き、もっと顧客ニーズを探る必要があると思いました。またK社に払うお金と保育園に払うお金に大差がないので、市場があると思ったとおっしゃっていたことが印象的で、ブルー・オーシャンを探す方法の勉強になりました。(企業勤務・Oさん)
・公共性の強いビジネスは、事業性を追求しても利幅が少なくなりがち。だが、事業に載せることができることを証明することが大切だということを学びました。証明すれば、公共セクターが後追いしてくる。公共セクターが後追いした後の展開方法の稚拙さも問題なのですが。。。(企業勤務・Kさん)
・熱く、でも冷静に分析すること。ビジョン・ミッションをしっかり持ち、その共有を意識的に行うこと。コアとなるモデルは最初にしっかりと固めて、その後はコアとなる部分は変えないこと。NPO等の活動開始とはあきらかに最初が違うということを実感しました。(東京都北区役所/SVP東京・齊藤さん)


以上


posted by Kokubo at 23:00| ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 研究と実践 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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