(ココファームの詳細については、こちらもご参照ください。)


一人のワインLOVERとしても十分に楽しいココファームさんですが、研究者としてもいつも何かしら新しいインスピレーションをいただく場です。いつもすごいな〜と思うのは、毎回訪問するたびに進歩が見受けられるところ。設備だったり、商品だったり、ワインだったり、人材だったり、何か新しいものがあります。「テーマパークは生き物である。進化し続けなければお客様に飽きられてしまう」と言ったのはディズニーランドを経営するオリエンタルランドの加賀見社長ですが、それと同じ精神をココファームには感じますね。
もともとは障害児教育に携わっていた川田氏が、1958年に障害児のトレーニングと就労の場として始めた葡萄の栽培を始めたのが社団法人こころみ学園の始まりです。しかし葡萄は生食用の出荷だけでは利益が少ないため、園生の父兄から出資を募って有限会社ココ・ファーム・ワイナリーを設立しました(社団法人だと酒造免許が下りない)。有限会社の代表取締役は園生の父兄、専務はこころみ学園長川田氏の長女さん、そして事務方を担ってるのがこころみ学園の担当小児科医の娘さんであり専務さんのクラスメイトだったUさんです。三重県のモクモクファームと同様、協同組合ライクなステークホルダー構造です。
ソーシャルビジネスのキモはCOOだと考えている私、今回もUさんとお話させていただきました。肩の力が抜けた楽しい方で、私のストレートな質問にも笑顔で応えてくれます。今回伺ったのは2点。1)組織の継続性と2)地元消費者とのお付き合いについて。
1)組織の継続性
昨今のソーシャルベンチャーはアントレプレナー個人の能力や魅力に依存しているところが多く、個人活動が組織に落ちていないので、組織の継続性という点では疑問を感じることもあります。ですがココファームさんは個人の顔(*現場でなく経営層の個人)がほどんど見えず、消費者から見ると組織としての一枚岩になっています。マスコミ等にも「ココファームの誰々さん」ではなく、「ココファーム」として出ていらっしゃる。営利企業では当たり前のことですが、ソーシャルベンチャーや小規模NPOでこういう対応をしているのは希少。そう率直にUさんに伝えると、Uさんは笑って「そうでしょう。うちは企業なので、個人の顔に頼るような仕組みにはしてないのです。それにこころみ学園の父兄に会社を作るための出資を募ったときに、『私たちは、自分が死んだあとでも子供(園生)が生活に困らないようにするための活動であれば喜んで出資します。でもあなた方の個人的な活動であれば、出資するつもりはない。』と言われているので、長期的に考えないわけにいかないんですよ。」とのこと。なるほど。持続性確保が至上命題になっているからこそ、組織化するということですね。それに起業家が暴走したときに止められるのは株主しかいないということを考えると、ビジョンに溢れた組織にこそ必要なガバナンスの仕組みかも知れません。
2)地元消費者とのお付き合い
ココファームさんのターゲットは、主に首都圏の消費者であるように見えますが、地元の人に受け入れられるためにはどうしてるんですか?と訊いたところ、「東京の人が多いように見えるのは、国保さんがいつも週末に来るからですよ。平日は地元の足利の人ばっかりですし、市内でうちのワインを扱ってくれているお店は多いです。」と言われました。あーそうなんですかー失礼しましたー。しかし設備の内装やワインのラベルなど、栃木の田舎(失礼)とは思えない、東京人の目から見ても遜色ないセンスの良さなのですよ。一言でいえばとっても垢ぬけている。私も地方出身なので、地方都市で東京の人の眼鏡にかなうようなセンスを維持することがどんなにすごいことかはよく分かりますが、これはおそらく専務さんが昔東京で編集者をやっていたこと、専務さんとUさんはしょっちゅう東京に視察に行っていること、などが大きいのだと思います。「でも、地元の人に受け入れてもらうためには、三歩先を行っちゃ絶対にダメ。半歩先くらいでないと。」だそうです。東京で流行っているものをそのまま持ってきても先鋭的すぎて受け入れられないので、地元の人視点になってちょっと先くらいを狙う、というのが鉄則であるとのこと。ほほう。
ココファームさんを見ていると、周りの期待に踊らされず、でもその時々で出来ることを着実にやっていくことの価値を感じます。私もそうありたいものです。

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