2014年07月12日

【もしベビ】コソダテ組織と組織社会化

第2回では、早期におでかけすることで他者から学習する機会を得られるということを書きました。ゆるい第3回をはさみ、第4回ではコソダテに必要となる知識の学習について。

子どもが生まれることがわかってからは、仕事で新たなプロジェクトを取り組むときと同様に、情報を集めて対策を練りました。ある程度の年齢になるとこれまでに培った知識と経験でだいたいのことは適応出来ちゃったりしますので、ゼロから何かを学ぶという経験が著しく減りますよね。でも出産というイベントは別格で、私はこの小さな存在と一緒に暮らすためのあれこれ、すなわち子育てに関する知識をゼロから学ぶ必要性に迫られました。そして知識といってもたまひよ系のほのぼのしたものではなく、どんな条件においてどんな課題が発生するのか、その課題はどんな構造なのか、どのような対策がとりえるのか、そのときの判断基準は・・・といった具体的な知識と情報の収集です。

だけど、出産・育児にまつわる情報って、意外と体系化・概念化されてないんですねえー。産婦人科医や小児科医が医療面から書いているものはまだあるものの、医療以外の子育ての部分となると個人の経験談の集積しかない。経験談は経験談で意味がありますが、根拠や前提条件が明確でない情報は、自分に経験値がない状態ではうまく活かせないのですよねえ。なので、出産前にいろいろ調べたにも関わらず具体的なイメージが持てないまま、ムスメとの対面のときを迎える羽目になりました。とくに私は里帰りをせず育児休暇を取得した夫と二人で産後生活を過ごすという選択をしたので、「とりあえず経験者(母親)のやり方をコピーする」というやり方がとれず、自分で情報収集して知識や経験を習得せねばならなかったので、事前に対策ができないというのはとても不安。とりあえず、私が赤ちゃんの世話に集中できるよう子育て以外の部分(主に家事というルーティンワーク)を夫にアウトソースするという体制は決めたものの、皆が大変と言う「赤ちゃんの世話」が具体的に何で、なぜそんなに大変なのかはどうしても分からなかったため、経験しながら学習していくしかないと腹をくくりました。そして、おもむろにスタートするコソダテライフ。

では、皆が言う「出産後は大変だよー」とは実際はどういう状態だったのか。新生児は昼夜の概念を持たず飲みだめができないので、生命を維持するためには2〜3時間ごとに授乳をせねばならず、かつ授乳の所要時間が30分から1時間かかります。つまり24時間体制で3時間ごとに授乳というタスクが発生する中、この授乳と授乳のスキマ時間で、自分の生命と家庭の生活を維持するためのタスク、すなわち睡眠やら入浴やら食事やら家事やらをこなさなくてはならないわけです。もちろん交代要員はおらず、休日はありません。また、仮眠は長くて2時間しかとれないので慢性的に睡眠不足となり、精神的な余裕は失われます。そこに追い討ちをかけるようにベビが泣くことでプレッシャーがかかりますが、ベビが泣く理由は空腹やオムツだけとは限らないので、その原因究明と対応をうまく動かない脳みそと身体で行い、失敗すればさらにプレッシャーがかかる。そしてこの生活が1ヶ月続くわけです。確かにこれは大変だしウツにもなるなあと思いました。この状況は、例えば一定時間ごとに原因不明のエラーが発生する絶対止めてはいけないシステム(=ベビ)の対応をたった一人で任されてるエンジニア(=母親)を想像してもらえば、この時期の母親業のブラック度合が理解できるのではないでしょうか。

そんなブラックな状況の中で、出産した病院で助産師さんたちに教わりながら私はコソダテに関する知識を学習していきました。ただ、ふと気づくと着実に経験を積んでいる私と夫とで、知識の量に差がついていくんですよね。退院後に一緒に子育てをすることを考えると情報の非対称性はよくないと考えたので、私は自分が習ったことをすぐに夫に教えるようにしました。また育児の難しさの1つはベビが泣く理由の特定と対応ですが、これも泣いているムスメを私が一方的に引き受けるのではなく、仮説を立てて検証するというプロセスを二人で共有する方法を取りました。知識量が母親に圧倒的に偏っていたら父親としては母親に全部任せたくなっちゃうだろうし、母親としても父親に任せるのが不安になると思います。でもそうすると母親だけに子育ての負荷がかかり、その結果としてさらに知識量の非対称性が進むので、そういう悪循環に陥らないよう二人の知識量が常に同等になるように気をつけていました。

この私の努力は実を結び(笑)、夫と私の知識量はほぼ同じように増えていき、私が出来ることは夫も出来るという状況に。そうすると、例えば、21時-5時は夜に強い私が育児を担当してその間は彼に休んでもらい、5時に交代してそこから8時くらいまで私がしっかり寝るという、育児のシフト制を導入することが可能になりました。そして、寝るターンのときはたとえムスメが泣いてても放置して睡眠をとることを優先し、育児ターンの方も相手を起こさないというルールを徹底。おかげで私はクリティカルな寝不足を避けることができたし、夜の育児ターンがきついときも「あと○時間で交代だ」と考えることで精神的に追い詰められずに済みましたので、この体制は本当に助かりました。

このプロセスは、いわば夫婦という組織からコソダテ家族という組織へ強制的に移行させられた男性と女性の、コソダテ組織への適応すなわち組織社会化だと思います。組織社会化とは、新規参入者が組織に適応していく過程のことで、代表的なのは新入社員が会社になじんでいくプロセスです。新規参入者を組織に迅速に適応させることができれば組織は効果的に機能しますので、企業は新人研修などを通じてこの社会化を促進します。そして適応のための学習手段としては、経験による学習、観察による学習、伝聞や指導による学習の3つがあります。また組織社会化は組織参入後のプロセスですが、組織参入前に参入後のことを想定して適応の準備をするプロセスのことを「予期的社会化」といい、予期的社会化を適切に行うことで参入後の適応は早くなります。だから企業は新入社員に入社前研修を提供したりするわけですね。(参考:稲葉ら「キャリアで語る経営組織」有斐閣アルマ)

で、出産後は女性も男性も、コソダテ組織への適応を強いられます。ですが、出産直後から学習機会をたくさん与えられて経験を積む女性に対して、学習手段や時間が相対的に少ない男性はどうしても適応が遅れてしまう。そして適応できないことでモチベーションが低下し、モチベーションが低いので経験も増えず・・・というスパイラルにはまると、いわゆる「子育てに非協力な夫」というのが出来上がるのかなーと。たとえれば、毎日出勤して研修も受けられる正社員と、出勤は週に2日で研修もないアルバイトとでは、組織社会化のスピードは同じではありませんし、その結果としてモチベーションに差が出るのは仕方ないのではないでしょうか。だから二人そろって「コソダテのための組織」へシフトするためには、学習機会の少ない男性に(育児を作業として与えるのではなく)学習する機会をたくさん提供し、適応を促進することが大事だと思います。あと、経験談だけでなく概念化された子育て情報がもっと増えれば、予期的社会化が出来るのになと考えています。

我が家のように未経験者二人がいちから調べたり考えたりして子育てするのは効率は悪かったと思いますが、社会化のスピードが揃ったことで夫婦でのコソダテライフはスムーズになりました。そして二人で大変な時期を乗り越える経験は、チームとしての結束を強めてくれます。このときの経験を踏まえて、男性の社会化プロセスのスタートを遅らせる里帰り出産より、なるべく出産直後から夫婦一緒に適応プロセスを始められる状況を作ったほうがいいし、そのために男性も1〜2ヶ月くらいは育児休暇か時短勤務が出来たらいいなと思うようになりました。そして育児休暇は「育児をする期間」ではなく(育児はずっと続くから)、「コソダテ組織への適応期間」として捉えるといいのではないかなと思います。


ちなみに私が役に立ったと感じる本。

松田 道雄「定本育児の百科」
定本育児の百科 (岩波文庫)〔全3冊セット〕 -
小児科医が書いた子育てに関する情報。ニュートラルで根拠がちゃんと書かれているところがすきです。クリティカルかどうかの判断基準が「ベビの機嫌」というのは非常に分かりやすいし、ベビを普段からしっかり観察さえしていればいいんだと思えて過剰に心配しなくなりました。

宋 美玄「女医が教える これでいいのだ! 妊娠・出産」
女医が教える これでいいのだ!  妊娠・出産 (一般書) -
妊娠出産系では一番参考になりました。

鈴ノ木 ユウ「コウノドリ」(モーニングKC)
コウノドリ(1) (モーニングKC) -
周産期医療にまつわる社会問題について勉強してみるかと手を出したのですが、その点でとても勉強になったとともに、子どもが無事に産まれてくるのは多くの幸運が重なった結果なんだと考えるようになりました。特に3巻の産婦人科医と助産師の関係については、どちらかに偏った論者が多い中、両者のコラボレーションに焦点を当てた非常にバランスのいい表現になっていてとてもお勧め。


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入院中はずっとこの風景を見ながらお世話をしてました。だからムスメの出産の記憶は、新緑。


posted by Kokubo at 23:17| 神奈川 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | もしベビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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