2013年08月25日

オランダのフューチャーセンター訪問レポート

今年の短い夏休みは、ドイツのDüsseldorfで過ごしました。
Düsseldorfはオランダの国境に近いので、ついでにAmsterdamから電車で2時間くらいのBredaという町にある、「The Shipyard」と呼ばれるDutch Tax & Customs Administration(オランダ国税・関税庁、以下DTCA)というお堅い感じの組織の専属フューチャーセンターに行ってきました。今年で設立10年だそうです。

IMG_0034.JPG
Bredaは観光地ではなく、駅前に大きな公園と河のあるのどかな郊外の町という風情。The Shipyardは写真左奥に見える、もともとDTCAのオフィスだったという古い邸宅を使っています。

このフューチャーセンターについては、こちらの経産省の報告書が一番詳しいと思います。
欧州におけるイノベーションと知的資産活用等に関する調査報告書(欧州のフューチャー・センターに関する実態調査) 2008年
6.1 THE SHIPYARD (Breda, the Netherlands): Future Center of the Dutch Tax & Customs Administration “The thinking power of people”(27ページ〜31ページ)

通称でありコンセプトである「Shipyard」とは造船所という意味で、DTCAとその社員を船と船員に喩え、「船員や船が調子が悪くなったときに修理に訪れ、また元気になって出航していくための場所」と自らを位置づけているとのこと。そのため内装には船や航海をイメージするものが多くあります。また案内をしてくれた方は、「break patterns」「license to disturb」というフレーズを何度も口にしていましたし、建物の中にはそのための仕掛けがちょこちょこ見られました。確かに直面している課題を乗り越えるためには、これまでの思考の枠に留まらず柔軟に考える必要があります。そして創造的なアイデアのためには、まずは「この場では何を言っても安全なのだ」と参加者に思ってもらうことが大事だということで、そのためにセッションでも準備とイントロダクションを丁寧に行っているという印象を受けました。例えば、参加者はまずシアタールームに案内されます。そこで「これから冒険の旅に出るんだよ」というメッセージのショートフィルムを見ることで、日常業務を離れ創造性を発揮する場に来たのだという意識づけをします。

IMG_0044.JPG
入り口を入ったところにある象徴的な船の絵
IMG_0042.JPG
「license to disturb」のサイン
IMG_0066.JPG
「break patterns」の例、整然としていないコート掛け
IMG_0090.JPG
シアタールーム

一軒家なので部屋数は多く、3階建てでワークショップ用の部屋数は15個くらいでした。そして各部屋が別の目的に使いやすいようにカスタマイズされています。

room.jpg
ライティングで雰囲気の変わるブレスト用の部屋
IMG_0095.JPG
プロトタイプ作成のための部屋
room_m.jpg
落ち着いて深い話をするための薄暗い部屋
IMG_0098.JPG
PCを使って無記名投票が出来る"Harvest"の部屋。机にはリンゴなどの収穫に使う木箱を利用
IMG_0099.JPG
"Harvest"の部屋の壁には、過去の参加者が具体的な"Harvest"を書いている
IMG_0052.JPG
一見落ち着いた書斎風、でも暖炉におもちゃの猫が置いてあったりとbreak patternsのメッセージが隠れている

素敵だったのは建物に入ってすぐに通される部屋で、50個くらいあるマグカップの中から好きなものを選んでコーヒーマシンでコーヒーを淹れて、雑談しつつ飲むことが出来ます。この時点で既に自主性を求められるし、そのワクワク感も同時に味わえるように思います。コーヒーコーナーは各階にあり、人がなんとなく集う場になっているそうです。他にもこの部屋はこんな目的で、こんな工夫があってね・・・という説明を本当に楽しそうにしてくれました。当事者が楽しそうなフューチャーセンターはいいですね。

IMG_0035.JPG
自主性を発揮できる入り口横のコーヒーコーナー
IMG_0064.JPG
ダイニングコーナーの窓にはスタッフの1人が描いた絵が

話を伺いつつ、結果だけを見るとすごく洗練されて完成度が高いものに見えるけれど、実際には社員の方が2人で(うち一人はArt School出身)あーでもないこーでもないといいながらDIYで試行錯誤を重ねた結果なんだなということがよくわかりましたし、The Shipyardの素敵空間を支えているのは、こういうトライ&エラーのマインドだなと感じました。というのも、上記の2008年の報告書に載っていたScenario Roomsはどこかと尋ねたときに、「ああ、あれは去年辞めたんだ。今はもっと稼働率のいい部屋になっている」という回答が返ってきたから。このやり取りから、常に改善し変化し続けることを躊躇わない姿勢を感じました。場というものは、完成した瞬間から陳腐化が始まると思っていますが、それを防ぐためにはこういう現場の人の努力が必須なのだということを改めて確認。まあでも、「型を破れ」のような台詞を、型にはまっている人に言われることほど白けるものは無いですよね。

IMG_0075.JPG
オフィス。個人的にはこの部屋が一番好きでした。
IMG_0116.JPG
帰り際に参加者に評価をしてもらい、定期的に集計しているそうです

このフューチャーセンターはDTCAから予算をもらって運営しているので、営利目的のワークショップや場所貸しはしていないとのこと。そのほうがDTCA社員にとっては安心して使える場ではありますが、少し勿体無いような気がするのと、コストセンターだとDTCAからの予算カットが怖くないかなーと思いました。その分フューチャーセンター側も成果にシビアになるのでいいのかもしれませんが、成果指標を間違えると本来目的を果たさなくなるので(例えば入居率で成果を測られるインキュベーションセンター等)、そこはどうしているのかは気になります。あと、スタッフは、その日お会いしたのは3名でしたが、実際にはかなり多くの人(何百人というレベル)が関わっているとのことでしたので、ボランティア等をうまく活用しているのだろうと推測します。別団体を同時期に受け入れるということもしていないとのことですが、それでも年間100回くらいのセッションが開催されているとのことで、丁寧な事前準備までを考えるとフル稼働といえるでしょう。それくらいの稼働率があるのであれば、予算獲得はやりやすいのかもしれません。DTCAの社員にとっても、「プロジェクトが煮詰まったらあそこにいこう」という存在感になっているようで、そういう正当性を確立できてしまえば強いですね。

ところで訪問時には、お土産代わりに国保ゼミのフューチャーセンターの説明プレゼンテーションをしたのですが、ファシリテーションや運営を学生が担っているのは素晴らしいというコメントをもらいました。オランダでも若年層の就職難が社会問題になっているようで、学生が会社というものを知るいい機会になるのではないか、また大人にとっても凝り固まった頭をやわらかくしてくれるいい刺激になるので、うちも学生の力をもっと使いたいんだけど、とのこと。何がそんなに難しいの?と訊ねたところ、学生が謙虚じゃないんだそうです(爆笑)。これは学生に限った話ではないけれど、確かに他者から学ぶ姿勢がない人はいい貢献をしてくれないですね。

ところで、どうしても充実の部屋数や凝った内装に目を奪われますが、話を聞いてみると、これらは参加者の意識の転換や目的別のディスカッションをやりやすくするための仕掛けに過ぎず、箱さえあれば必要なディスカッションが勝手に生まれるとは決して考えていないことがわかりました(やっぱそうよね!)。目的に沿ってカスタマイズされた箱があれば確かにやりやすくなるけど、どちらかというとどんな内装があればどういう効果があるのか、内装に依存せずその上でどういう工夫をしているのか、というヒアリングが出来たことは収穫です。そして、そういう話をしながら私が考えていたのは、この目的によって部屋を使い分けるという発想は、ダイニングルームやリビングルームが分かれている西洋の発想なので、ちゃぶ台や座布団やお布団によって、1つのタタミ部屋がダイニングにもリビングにもベッドルームにもなる日本の文化的背景を考えると、部屋そのものを変えなくても小物類で工夫すればいいのではないかということ。うちのフューチャーセンターは1部屋しかないことを残念に感じていたけれど、日本でやっている限りはそれほど制約にならないのかもと思えました。人数も「経験的に、創造的ディスカッションが目的なら20人は適切な規模」と言われましたので、今の20人定員(夏場は15人)というのはいい線だな、と。こういう具体的な数字や閾値や、機能しているメカニズムが知れるのは、事例視察の大きな価値だと思います。おかげさまで今後の方向性のヒントを得ることが出来ました。

IMG_0057.JPG

posted by Kokubo at 12:53| 神奈川 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | フューチャーセンター日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年08月18日

大学生研究フォーラム参加レポート

大学の授業が無い夏は執筆がメインのお仕事なんですが、この週末は研究&教育面での関心から、中原先生のブログで見かけた「大学生研究フォーラム2013」に出かけましたので、レポート。上記の中原先生のブログでは当日のまとめプレゼンが公開されており、全体の流れを知りたい方には中原研究室の館野さんブログをお勧めしまして、私は自分の興味のところを中心に紹介します。

2013-08-18T01-52-12_3.jpg
東京大学の伊藤謝恩ホール、きれいですねー。

私は社会人教育・企業内教育としてのトレーニングを受けた後に学部教育に移行したパターンなので、大学教育と企業内人材育成の連携や融合には興味があります。なので今回特に興味があったのは、京大・溝上先生の主に「大学生の学び、キャリア」のセッション。でも実際に聞いてみたところ、文科省・松尾さんの留学のお話や、日産・奈良崎さんのグローバル人事の話も非常に面白かったのでこちらも紹介します。

1)大学生の学びの状況
溝上先生曰く、以下の3つの力や態度が弱い学生は成長しない確率が高いことが、またこれら3つの力が社会に出た後の職場での働き方に強く関連していることが調査で明らかになったとのこと。
 @主体的に学ぶ力(教室外学習、主体的に課題に取り組む態度など)
 A豊かな対人関係や活動性
 B高い将来の意識を持つ

ちなみに少し補足しますと、
@に関しては日本の大学生の7割は一週間の授業外学習時間が5時間以下だそうで(0時間も多い)、アメリカだと「今は減ったと嘆かれていて12時間」なんだとか・・・。私の静県大での2年生向け選択科目「組織行動論」をとった人は予習必須なので、3時間程度の授業外学習時間の世界を知っていますね。また非常勤で教えている慶応SFCの学生はグループワークが必要な授業も多く、授業外学習時間がけっこう高いのではないかと察します。
Aは、@とBを補強する因子で、つまりAだけでも駄目だけど、Aがないと@とBが実現できないということになります。そもそも対人関係に問題あると仕事になりませんし。
Bに関連して面白かったのは、15年間京大生を見ている溝上先生の感覚として、頭の中で将来の見通しを考えている学生の比率は昔も今もあまり変化を感じないが、そのために日常で何か努力をしている比率は大きく異なるように感じる、とのこと。頭で考えてるけど行動レベルに落とす人が減ったということですね。

なお今は京大生も就活に苦戦しているそうで、第一希望に内定するのは約半数で、1/3は途中で就活をやめている(進学とかにシフトする)というデータも拝見。今の就活状況のシビアさがよく分かりますよね。そして上の世代の俺はこうやったぜアドバイスも役に立たない。そもそも競争環境が違うわけです。今の大学生は大変だなーと思います。

※調査データはこちらで公表されています。
京都大学/電通育英会共同 大学生のキャリア意識調査

2)大学生の留学状況
文科省・松尾さんによりますと、OECDのデータ上は世界的には留学生の総数は増えている一方で、日本人の海外留学の人数はピーク時の約30%減だそうです。ただこれは18歳人口が減少しているのだから当たり前の話で、学生数における留学経験者数という比率はあまり変わらないようです。じゃあなぜ「今の若者は内向き」と言われるかというと、アジアや発展途上国を留学先に選ぶ人が増える一方で一昔前の主要留学先であったアメリカへの留学が大きく減っているため減少部分が目立つこと、中国やインド、韓国等の留学生が激増しているから相対的に少なく感じること、を挙げられていました。これまでなんとなく不思議だったことがデータで説明されてとてもスッキリ。

3)グローバル経営の状況
日産・奈良崎さんのグローバル企業の人事が今どうなっているのか、という話。日産自動車は日本市場での販売台数が全体の13.2%なんだそうで、経営や人事のグローバル化は必須。Non-Japaneseの比率はトップマネジメントレベルで55%、本社執行役員以上で24%、現地法人の社長ポストは70%以上(ただしNon-Japaneseイコール現地国籍ではないとのこと)だそうで、当然ながら会議は英語です。人事システムはグローバルで共通で、採用戦略の1つは欧米の名門ビジネススクールで留学生を採って、その故郷ではない国に赴任させるという方法。こういう話を聞くと、グローバル化とは何かという議論自体が陳腐化して見えます。で、これがすごく面白かったんですが、奈良崎さん曰く「日産は日本企業をやめるつもりはない。日本企業だから売れているということをグローバル経営陣も理解している。」「しかし日本国籍であることが採用や昇進においてアドバンテージになるわけではない」そうなんですよ。これ、矛盾しているようですごく納得する。

この奈良崎さんの話、基調講演の安西先生の「グローバル化とは、隣に知らない人がいるという状況」、先日行ったデュッセルドルフでお会いした日本人赴任者(メーカー&外資コンサル)、これらの情報を全部ふまえて、グローバル人材とは、

 「世界のどこででも、同じように成果が出せる人」

なんだなあ、と思った次第です。つまりプロジェクトだろうがなんだろうが、文化や人種という文脈を乗り越えて結果を出せる人です。まず自国・自文化・自国語の環境ではできて当たり前。さらに環境変数が変わっても、ちゃんと同じように成果が出せる人っていうのが「グローバル人材」ではないかと。これから大学を卒業する人たちは、そういう世の中で働くんですね。なお奈良崎さんは、ダイバーシティの高いチームはuncomfortableですよ、だから学生のうちにuncomfortableな状況に慣れておいたほうがいいですよ、と言っておりました。

4)大学生のインターン
大学生のインターンについても興味深い話を聞けたんですが、これは後日ちゃんとまとめたいので、今日は割愛します。ご興味ある人はこちらの厚生労働省の報告書をどうぞ。
「インターンシップ推進のための調査研究委員会報告書」の取りまとめ


2013-08-18T01-52-12_0.jpg
Learningful Lunchもこんな素敵な環境です。


大変得るものの多いフォーラムでした。研究へのモチベーションもあがった!


posted by Kokubo at 21:03| 神奈川 ☀| Comment(1) | TrackBack(0) | おしごと日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。